【テロワール感じる自然酒から学ぶ】 サステナブルのヒントは古くから 親しまれていた“発酵”にありました
2023年の12月末。東京・世田谷代田にある発酵デパートメントにて、パタゴニア プロビジョンズ主宰のイベント・発酵ウィークのトークセッション「自然酒は生きている」が行われました。 【画像】自然酒づくりは2年目。同じ銘柄ながら、昨年とまた違う味わいが楽しめるのも自然酒の魅力だ。 年の瀬とは思えない陽気のこの日。気候変動によって四季の移ろいが失われつつある現実をまざまざと感じた一方、パタゴニアプロビジョンズのオリジナルプロダクト「自然酒」との出合いは明るい未来を予感させてくれるものでした。 今回トークセッションに登壇したのはパタゴニアプロビジョンズ・ディレクターの近藤勝宏さん、発酵デザイナー/発酵デパートメントCEOの小倉ヒラクさん、市民エネルギーちば/TERRA・代表取締役の東 光弘さん。日本で古くから親しまれたてきた「発酵」をヒントに、これからの私たちの食や暮らしの目指すべき姿を語ってくれました。
「SAVE OUR PLANET」を追求するためパタゴニアが始めた食ブランドって?
「自分たちのビジネスで地球の問題を解決し、守りたい。これまでアパレルでそれを実践してきたんですけど、今地球の一番の問題になっているのは食や農業なんですよね。たとえば、温室効果ガスの発生量の4分の1以上が農業からきている。“食”って生きる上で絶対になくならないもの。だったら、その食の作られ方や食べられ方、選ばれ方を変えていこう。そうすればそれは問題ではなくて解決策になるんじゃないか。そんな考えから、パタゴニアプロビジョンズはスタートしました」(近藤さん) 2016年の食コレクション開始当初より、海を浄化しながら育つムール貝や多年生穀物のカーンザを使用したビールなど、コンセプトに合った輸入食品を販売。そして今、パタゴニアプロビジョンズがもっとも注力しているのが、ドメスティックな食品の開発です。
目をつけたのは日本のローカルフード“米”を使った日本酒づくり
「食ってそもそも究極のローカリズム。だからドメスティックな食品を作りたかった。その構造を模索していくなかで、山や海の資源を再生するようなやり方で育てられた食材を使いたいと思ったんです」(近藤さん) そうしてパタゴニアプロビジョンズが着目したのが“米”。 「日本にとって米はとても重要。日本の農地の54%が田んぼですし、それに田んぼの存在意義は食料としてだけではありません。田んぼを育てることで、周りの生態系そのものも豊かになるんです」(近藤さん) 田んぼの凄さについて、小倉さんもこう話します。 「そもそも日本は島国なので、限られた土地の中で生きていかなければいけません。今いる場所の土がダメになったら次のところへ、ということが容易にできないからこそ、自然と共存しながら何百年と続けられる農業の技術や思想が育まれてきたわけです。たとえば兵庫県・但馬の生産者による“コウノトリ育む農法”という伝統的な農法もそのひとつ。田んぼに堆肥やヌカを散布したり、冬でも水を張ったりして、虫や鳥などさまざまな生き物を呼び込むんです。そしてその生き物たちの有機物を土に戻して栄養にすることで、農薬や化学肥料を使わずに土を豊かに循環させている。コウノトリ育む農法で作られたこの米は、今回パタゴニアプロビジョンズさんから発売された寺田本家の自然酒「繁土 ハンド」にも使われています」(小倉さん) さまざまな生き物が集まり、人と自然が密接に関係していた古の田んぼづくり。パタゴニアプロビジョンズが解決策として見出したのは、“新しい何か”ではなく、そうした昔ながらのやり方でした。そうして伝統とオリジナリティ、地域コミュニティを重んじる2つの酒蔵とともに作り上げたオリジナル自然酒には、未来を豊かにしていこうとする強い想いが込められています。