ゲーム音楽家活動36周年 『スーパードンキーコング』を手がけたデビッド・ワイズの足跡
ヒキガエルとハード・ロックの激突──『バトルトード』
1991年6月発売のNES版と同年11月発売のゲームボーイ版をはじめとして多機種で展開された『バトルトード』は、二足歩行する3体のヒキガエルのキャラクターを選択してステージを攻略する横スクロールアクションゲーム。数々のメディアミックスでヒットを飛ばしていた「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」の二匹目のドジョウを狙って制作された本作は目論見通りヒットし、90年代のレア社を代表するタイトルとなった。これまでになくハード・ロックに接近した音楽性となったのは、ティム・スタンパーが当時「ドイツのロック・バンド」にハマっていたことが大きな要因だったようだ。チップチューンによる骨太なギターリフと巧みなベースラインが聴きごたえをもたらしている。 NES版『バトルトード』のセンセーションは、1993年発売のレア社の開発タイトルが『バトルトード』関連タイトルでほとんど占められていたことからも如実にうかがえる。メガドライブ版(日本版はセガから1993年3月発売)とゲームギア版(日本版はセガから1994年1月発売)、ゲームボーイ用ソフト『Battletoads in Ragnarok's World』(日本未発売。内容は1991年発売のNES版の移植)、SNES用ソフト『Battletoads in Battlemaniacs』(日本版は日本コンピュータシステム/メサイヤから1994年1月発売)、そして『ダブルドラゴン』シリーズとクロスオーバーした『Battletoads & Double Dragon』のNES版、SNES版、ゲームボーイ版(いずれも日本未発売)といったラインナップである。 『Battletoads in Battlemaniacs』はデビッドが初めて手がけたSNES/スーパーファミコン作品だが、すでにハードの音源を見事に使いこなしており流石というほかない。エッジーなギターサウンドの質感が非常に素晴らしく、スーパーファミコンによるハード・ロック作品として完成されている。パーカッシブなバッキングトラックからは後の『スーパードンキーコング』の片鱗がみられる点も興味深い。その少し後に発表された『Battletoads & Double Dragon』ではハード・ロックとシンセ・ロックがバランスよくブレンドされ、2つの作品のクロスオーバーというコンセプトが音楽的にもしっかりと表現されている。 1994年にはAMIGA版、AMIGA CD32版、アーケード版『バトルトード』も発表された。アーケード版はコンシューマー版ではできなかったスプラッター表現が盛り込まれている。敵キャラクターの股間を殴りつけるアクションが用意され、『ファイナルファイト』『ストリートファイターII』の車破壊ボーナスゲームのパロディ(ただしこちらはパイロットが乗り込んだままの戦闘機を破壊していく)が差し挟まれ、最終ステージではそれまでとは打って変わって横スクロールシューティングに舵を切るなど、スタッフ陣の遊び心と悪ノリも全開の内容であった。 それらが災いしたのか、はたまた時流にそぐわなかったのか、セールスは思った以上に振るわず、その後のシリーズ展開が打ち切られてしまう大きな要因となってしまったが、レア社が3DCGソフト「PowerAnimator」を用いてレンダリングを行った最初のタイトルが本作であり、その後の『キラーインスティンクト』や『スーパードンキーコング』にノウハウが活かされていくことを考えれば、意義深い“先行投資”であったのは間違いない。長らく沈黙を続けたシリーズだが、2018年のE3でリブートが発表され、レア社のバックアップを受けたDlalaStudiosが開発を手がけた『バトルトード』が2020年8月20日にXbox Game Pass対応タイトルとして配信された。こちらはデビッド・ハウスデンが旧作楽曲のアレンジと新曲を手がけた。 ■悲運のパズルアクションゲーム──『Monster Max』 この時期のデビッドのロックサウンドでは、フランスのTitusからゲームボーイ用ソフトとして発売されたアイソメトリック・ビューのパズルアクション『Monster Max』にも注目したい。開発は1993年中に行われ、携わったメンバーはわずか3人。かつてOcean Softwareで『Batman』『Head Over Heels』といったアイソメトリック・ビューのゲームを手がけたプログラマー/デザイナーのジョン・リットマンとグラフィッカーのバーニー・ドラモンド、そして音楽担当のデビッドである。音楽・効果音に関して、ジョンはデビッドと電話で何度かやりとりしたのみだった。『Monster Max』は1994年初頭にゲーム誌のレビューで高評価を獲得したにもかかわらず、何らかの事情で発売が1年近く遅れた(ヨーロッパ圏で店頭に並んだのは1994年12月だったという)ためにセールスが振るわなかった。悲運のエピソードというほかないが、リットマンが総力を注いだ意欲的なゲームデザイン、そしてゲームボーイサウンドでヘヴィ・メタルのテイストを感じさせる楽曲は、今なお色褪せない仕上がりだ。 ■デビッド・ワイズの音楽性と柔軟な吸収力 ジャンルを問わず、いいと思った音楽は何でも聴く──それがデビッドのスタンスである。冒頭で紹介したカミナリのインタビュー動画では好きなアーティスト/影響を受けたアーティストとしてフィル・コリンズの名前を挙げていたが、過去のインタビューではブライアン・ウィルソン、ジミ・ヘンドリックス、マイルス・デイヴィス、ザ・ポリス、ジャーニー、ゴー・ウエスト、ヴァンゲリス、プロコフィエフ、ワーグナーなどの名前を挙げていた。また、大きなインスピレーションを受けたアーティストとして、数々のプロデュースワークでポップスの技術的な水準を高めたトレヴァー・ホーンを挙げている。 影響を受けたゲーム音楽家としてティム・フォリンの名前を挙げているのも興味深い。当時のデビッドのゲーム音楽制作の考え方を大きく変えたタイトルとして、ティムが弟のジェフとの連名で音楽制作をおこなったアクションゲーム『プロック(PLOK!)』(1993年9月発売/日本版はアクティビジョン・ジャパンから同年12月発売)を挙げている。同作はSNES/スーパーファミコンサウンドの最高峰といっても過言ではない多彩な音楽性と豊潤な楽曲が収められており、アコースティック・ギターの軽快なカッティングとエレクトリック・ギターの熱を帯びたチョーキングが鳴り響くタイトルテーマで、いきなりプレイヤーの度肝を抜く。デビッドは「これがハードルなんだ。もっと上を目指さなければ」と思い、創作意欲を大いにかき立てられたという。
糸田 屯