日英合作映画『コットンテール』に主演のリリー・フランキーが考える“孤独”と“コミュニケーション”
「プロの俳優じゃない」と言い続ける理由
本作のワールドプレミアは、昨年10月にイタリアで開催された第18回ローマ国際映画祭。ディキンソン監督が最優秀初長編作品賞を受賞する快挙を成し遂げた。リリー・フランキーが監督と共にレッドカーペットに登場すると、メディアやファンの熱烈な歓迎を受けたという。 日本ではイラストレーターや作家、作詞・作曲家、カメラマン、テレビ・ラジオ番組の司会、そして俳優……と、文字通りマルチに活躍する唯一無二のタレント。事あるごとに「自分はプロの俳優ではないから」と発言し、肩書きに縛られることなく飄々(ひょうひょう)と生きている姿が印象的だが、海外では俳優専門だと思われていても不思議ではない。 「いや、映画の舞台挨拶でも、僕が書いた本の翻訳や、『おでんくん』のぬいぐるみを会場までわざわざ持ってきてくれる人がいるんです」 『おでんくん』はリリー・フランキーが2000年代の初めに出版した絵本で、NHKでアニメ版が放送された。自伝的小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』は、海外でも翻訳されている。どうやら、さまざまなジャンルで才能を発揮する“異能の俳優”であることは国外でも周知のことらしい。 ただ、日本だろうと海外だろうと「自分の見え方みたいなものは意識したことはない」のがリリー流だ。 「そもそも僕は“キング・オブ・カルト”として知られる石井輝男監督の遺作『盲獣VS一寸法師』で俳優デビューしているから、なかなかメインストリームに行かないというのはありますよね(笑)」 この知られざる俳優デビュー作については、こんなエピソードを明かしてくれた。 「俳優の長谷川博己くんが大学生の頃、ある雑誌社のアルバイトで僕のところに原稿を取りに来ていたんです。彼もたまたま『盲獣VS一寸法師』のオーディションを受けていて、落ちてしまったと。彼にこう言いました。『もしも君があそこから俳優としてのキャリアをスタートしていたら、きっとNHK大河ドラマの主演までたどり着いていないぞ』って(笑)」 あくまで「自分はプロの俳優じゃない」としきりに言うのは、謙遜というよりも冷静な分析からのようだ。 「役作りのようなことも特にしないし、たとえ主演であったとしても、完成した作品は客観的に観られます。それはきっと、映画に出ている時間よりも、映画を観てきた時間の方が圧倒的に長いからだと思う」 映画評の仕事経験も長いリリーらしい言葉だ。役を演じるというよりも、制作チームの一員であるという意識が強いのかもしれない。今回の『コットンテール』のように、監督が自身の経験をもとに原案・脚本も手掛けた作家性の強い作品ではなおさらだ。 「いかに作り手の頭の中にあるイメージを自分が再現できるかが何よりも一番大切であり、そのためにコミュニケーションを取ることはいとわない。『監督が納得いくまで撮ってくれ』とあらかじめ伝えるようにしています」 これこそが、“俳優リリー・フランキー”が監督から絶大な信頼を置かれる理由なのだろう。 取材・文=渡邊 玲子