日英合作映画『コットンテール』に主演のリリー・フランキーが考える“孤独”と“コミュニケーション”
老いと孤独、家族、社会
妻・明子を演じるのは、リリーとは『ぐるりのこと。』(橋口亮輔監督)以来、16年ぶりの本格的な共演となる木村多江。 「木村さんとは16年ぶりでしたけど、橋口監督に “夫婦像”を刷り込まれていたので、そこから続いている感覚もあって、すごくやりやすかったですね。あの映画の中で木村さんはメンタルをやられた役でしたけど、『今はあの奥さんを介護しているんだ』という感覚でした」 折り合いの悪い息子役の錦戸亮とは初共演だ。 「錦戸くんは、昔から抑えた芝居ができる人。周りがキラキラした役をやっていた時に、彼はすごく上手に抑えた演技をしていたのが印象的で。今回の作品でも、父親に言いたいことも言わず辛抱し続けてきた息子の姿をすごくいいなと思いながら見ていました」 農場主ジョンとの対話は、家族の前では素直になれなかった兼三郎が、言葉や文化の違いを越え、互いの境遇を理解し合うことで、心を動かされていく場面だ。英語だけのシーンもリリーらしさを貫いた。 「やっぱり英語だけで芝居をするというのはなかなか難しいですよね。役柄の設定上、兼三郎は英語の教師も少しやっていたけど、イギリスに住んだ経験はないので、流ちょうであっては変だけれども、物語上ちゃんと会話が成立しなければいけない。しいて言うなら、『すごく英語をしゃべれている人』には見えないように気をつけました」 監督自身の内なる悔恨や葛藤、願望を登場人物に投影した作品でありながら、社会にうまく適合できない不器用な人が、老いとともに抱く孤独や苦悩も繊細に描かれている。定年後、妻に先立たれて孤立してしまう中高年の男性が多いことについて、リリーはこう見解を述べた。 「僕なんかは、妻も子もいない、典型的な独居老人ですけど(笑)。社会と関わることにわずらわしさを感じている兼三郎の感覚は、個人的にはよくわかりました。今の世の中、社会の規範を押し付けられている感覚があるじゃないですか。若い時よりも年取ってからの方がそういうのを息苦しく感じる。そうなったら、社会とちょっと線を引いてみるしかできないわけでね」 「早々とケアハウスに入った人がうまくいかなくて、結局は出てくるみたいなことだってありますよね。孤独と社会性って、最後まで折り合いがつかないと思うんですよ。だから兼三郎はこの年齢のすごくスタンダードな人なんだと思う。介護を通じてしか妻とつながれないとか、介護がなくなっても、遺言に突き動かされて外国まで行くとか。誰しも親や家族に囚われているから、純粋な孤独さえ得られないんですよね」