市川中車さん「もう一本道、一門に尽くす」 揺れた澤瀉屋、猿翁さん、團子さんを語る
大阪松竹座(大阪市中央区)で23日まで上演されているスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」。澤瀉屋(おもだかや)を率いていた二代目市川猿翁さんが創造した作品で、主演を孫の市川團子さん(20)が勤めている。澤瀉屋では昨年、市川猿之助さんが両親への自殺幇助罪で有罪判決を受けたほか、猿翁さんが死去した。揺れた一門に何を思うのか―。團子さんの父、市川中車さん(58)が産経新聞のインタビューに応じ、思いを明かした。 【写真】大阪松竹座で上演中の「ヤマトタケル」でタケルを演じる市川團子さんとタケルの父、帝役の中車さん ■歌舞伎は天の父と地の團子に 昨年、澤瀉屋は激震が続いた。5月、市川猿之助さんの自宅で両親が死去。猿之助さんは両親の自殺を手助けしたとする自殺幇助罪で執行猶予付き有罪判決を受け、確定した。9月には中車さんの父で猿之助さんのおじである猿翁さんが、83歳で亡くなった。 「人生は何が起こるか分からないものです」。自身も令和4年8月、高級クラブでのトラブルを週刊誌に報じられた中車さんは、かみしめるようにそう言った後、頭(こうべ)を上げた。「でも、もう一本道。歌舞伎は天の父と地の團子がやる。僕は一門のために尽くすのみ」 ■「ヤマトタケル」に重なる数奇な運命 古代日本の国造りを描いた「ヤマトタケル」は父子の断絶と和解の物語でもあり、中車さんの人生と重なる。中車さんふんする帝はヤマトタケル(團子さん)に厳しい命令を与え続け、タケルは父に認められず苦しむ。中車さんは「本作の父子の関係はまるでうちの家族のようだ」と数奇な運命に思いをはせる。 猿翁さんと中車さん父子にも長い断絶の時間があった。中車さんが物心つく前に両親は離婚。25歳のときに会いに行ったが、猿翁さんからは「あなたは私の息子ではない」と拒絶された。 中車さんの受け止めは違った。「私にはなぜかその言葉が『愛している』と聞こえた。会った直後、父は『義経千本桜』の狐忠信(きつねただのぶ)を涙を流して演じていたそうです」 父子はやがて、和解のときを迎える。平成24年、中車さんは歌舞伎界に入った。演技派俳優、香川照之として高い評価を得ていたが、猿翁さんの直系として團子さんを歌舞伎俳優にし、先祖代々の道を継がせたいという願いがあったからだ。 すでに46歳。「中年から始めて何ができるのか」という批判もあったが、稽古を重ね先輩の教えを聞き、舞台に立つ。努力は実を結んでいく。