『虎に翼』寅子が“見本”として示した声をあげることの意義 “無数の雨だれ”は続いていく
伊藤沙莉にはどこか年齢不詳の妖精感がある
閑話休題。原爆裁判、尊属殺人、少年法改正と定められた法律によって不自由を被っている人たちのために寅子やよね(土居志央梨)や轟(戸塚純貴)たちは奮闘し、原爆裁判では「政治の貧困を嘆かずにはいられない」と、尊属殺人では、「無力な憲法を、無力な司法を、無力なこの社会を嘆かざるを得ない」と断じ(嘆いてばかり)、愛を訴えて少年法の改正を保留にしてきた。そしてまわりまわって、物語は、やっぱり男女平等に戻る。笹竹で、寅子のような女性は特別ではなく、たくさんいるのだと桂場は認める。平成11年には、男女共同参画社会基本法が施行されている。優未がそういう時代に生きることができたのは、過去に立ち上がり声をあげた無数の雨だれのおかげである。 優未を心配して周囲をうろつく霊体の寅子が、『ブギウギ』のスズ子(趣里/澤井梨丘)の子ども時代に演じた雨の妖精のように見えた。かぶりものはかぶっていないが伊藤沙莉にはどこか年齢不詳の妖精感がある。 興味深かったのは、男女平等を掲げ、それが多くの視聴者にも支持された理由にもなったが、登場人物が年齢を重ねていったとき、外観から老けて見せていくアプローチをしていたのは主に男性(松山ケンイチや滝藤賢一、最終回ではようやく岡田将生が見事に老けた)で、女性陣は平岩紙以外、老いの表現が抑えめだったことである。伊藤沙莉はその妖精感を大事にしていた印象だ。 松山ケンイチが突出して老い演技に積極性を見せていたともいえるのだが、朝ドラでは『虎に翼』に限ったことでなく、ヒロインは年をとっても老いのメイクや仕草に遠慮が見える。男女平等が徹底されたらこういうところも均していくことになるのではないか。と思ったが、いまや男性もメイクを積極的にする時代に変わってきているので、男性が老けメイクをしなくなる時代になるのかもしれない。岡田将生が最終回になるまで若見えしたままだったのも、令和の男女平等を体現していたのかもしれない。よくもわるくも改正されていく法律と同じように、そのときの価値観で社会は変わる。ほんとうに大事なことは、社会がどんなに変わっても、自分の信念を守り続けることなのではないか。寅子やよねの意思の強さに励まされた。
木俣冬