「動けない大国」アメリカの行方 第5回:米国復活のカギは「移民」 /上智大学・前嶋和弘教授
これまで論じたように「アメリカの覇権は終わった」というのはあまりにも拙速な議論にみえる。ひるがえって、アメリカ国内の政治や社会を見てみると、「アメリカの復活」を示すといえば言い過ぎかもしれないが、少なくとも脱「膠着化」といったきざしもがみえつつある。 【写真】第4回:新しい覇権国家と「アメリカ後」の世界
(1)移民増加と「新しいアメリカ」
今後のアメリカ社会を考える上で欠かせないのが、人口動態的な変化である。アメリカの人口の増加は先進国の中で抜きん出ている。1980年の2億2654万人から2010年の3億874万人と40年間で36%も増えているといえば、いかにアメリカ社会が急変しているかが分かるであろう。人口増の主な要因となっているのが、ヒスパニック系(ラテン系)やアジア系の移民増である。 移民増は政治過程にも大きな影響を与える。例えば、移民政策や所得再分配的などに関する政策争点は両党にとって利害が共通する重要な争点に変貌していく可能性がある。そうなると、政治過程における政党間の協力が一気に進んでいくというシナリオも考えられる。 また、ヒスパニック系やアジア系の移民はいまのところ民主党支持が多いのも注目したい。第4部でのべたように、近年は民主・共和両党が議会内の議席数で拮抗する傾向にあり、両党の対立が膠着状態をもたらしているが、移民増は民主党や支持者にとっては朗報である。ただ、移民人口が国籍を持つまでには時間がかかるほか、共和党側も移民にすり寄った政策を間違いなく打ち出していく話は単純ではないが、いずれにしろ、移民が「新しいアメリカ」を作り出し、移民政策が今後のアメリカの政治過程を大きく左右するのは間違いない。近年の移民改革法案をめぐる熱い議論などをみると、既にその兆候は顕著である。
(2)国民の不満と新しい選択肢
また、現在のアメリカの政治過程そのものに対する国民の不満は非常に強く、変化がうまれるきっかけになるかもしれない。議会としてはここ数年、民主・共和両党の対立で膠着状態が続いているため、議会に対する国民の支持率が史上最低レベルまで落ちている。 国民の支持がこれ以上、離れることは議会としては立法活動に対する国民からのマンデート(委託権限)がないことを意味する。また、候補者にとっては再選を目指すのに悪影響である。両党いずれも新しい選択肢を提示するか、対立を超え、何らかの形で妥協しながら政治を動かしていく必要にいずれは迫られるであろう。