天敵オオカミでも絶滅はさせない……自然と調和、内モンゴル遊牧文化の真髄
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。 ----------
遊牧社会で一番大事なことは、すべての動物や植物を絶滅させずに調和、共存することだ。 例えば、春から夏にかけて家畜の天敵であるオオカミの巣を探し、生まれたばかりの子どもを殺すことがある。その際も、全部は殺さず、必ず一匹残す。これもオオカミの絶滅を避けるためだ。 しかし、60年代から漢族が増えると、この掟が破られ、内モンゴルではオオカミがほぼ絶滅した。最近、国境付近ではモンゴル国から入ってくるようになって、その生息が確認されている。 また、ゲルに蛇が入ってくることがある。その際は、木の枝などで丁寧に持ち上げ、ゲルから少し離れたところに置き、頭に牛乳を捧げ、自然に戻す。決して、殺してはいけない。 遊牧民が年に何回も遊牧する最大の目的は、一カ所で草を家畜が食べ尽くすことを避け、豊かな牧草地を守り、自然と人間の調和を大事にすることだ。これが遊牧文化の真髄だと思う。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第6回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。