『ブギウギ』スズ子と愛助に年齢の壁が まるで“USK時代の直談判”な坂口への抗議
朝ドラとは、主人公とその運命の相手が結びつくまでの過程が一番観ていて面白い。 筆者も今朝の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)を観た勢いのままに今綴っているので異論は認めるものの、何者でもない万太郎(神木隆之介)が寿恵子(浜辺美波)を迎えに行くまでの『らんまん』(NHK総合)も、舞(福原遥)が貴司(赤楚衛二)が短歌に込めていた情熱的な思いに気づくまでの『舞いあがれ!』(NHK総合)も、それぞれ作品全体における大きな山場として描かれていた。 【写真】水上恒司インタビュー撮り下ろしカット 『ブギウギ』は第11週でそのパートに突入している。先述した2作を例に、それぞれ恋には大きな壁が立ちはだかるのがセオリーだが、『ブギウギ』の場合、第11週のタイトルにもなっているようにスズ子(趣里)と愛助(水上恒司)の年齢が10歳(正確には9歳)離れていること、愛助が村山興業の御曹司であることがスズ子側、愛助側の双方から恋仲になることに釘を刺される要因となっている。 だが、愛助から「歳の差なんか関係あらへん。僕は福来さんのことが好きです!」と真っ直ぐな告白を受けたスズ子は、胸のトキメキを抑えられずにいた。伝蔵(坂田聡)の屋台で気持ちよく酔い潰れるスズ子。屋台の湯気が、スズ子の心情を伝える淡いフィルターとなって画面に効果的に使われている。 昭和18年10月。戦況はさらに厳しくなり、政府は学徒出陣に踏み切る。新聞に載る出陣学徒の笑顔を見て、スズ子の脳裏には愛助の顔が浮かんでいた。 愛助のことを目の敵にしている小夜(富田望生)がスズ子の恋の相談を聞くことになり、シーンは再びの屋台へ。スズ子のことを心配しているのか、それとも恋話が好きなのか、おそらく後者な予感はしているが……男性から初めて気持ちを伝えられたスズ子に対して、小夜は何度も告白されたというが、その度に騙されてもきたようだ。小夜が愛助に不信感を抱く理由はそこから来ているが、愛助は誠実で「チャップリンみたいに世界中を笑わせたい」という大きな夢を持っているのだと、スズ子は小夜と話していくうちに自分の気持ちを確かめていく。 スズ子の中でもネックになっているのは、愛助との年の差。彼からの告白に対して勇気を持って踏み出せないスズ子の背中を力強く後押ししたのは、まさかの伝蔵だった。「大事なのはなおめえの気持ちだろう」。周りが全員反対する中で初めてスズ子が受け取った肯定の言葉。「あの野郎は悪い奴じゃねえ。なかなかいい目してやがった」というここに来ての伝蔵の慧眼は説得力がある。「若え時の俺とそっくり」という余計な一言は上の空だったとしても。 翌日、愛助の下宿へと向かうスズ子。部屋の前で呼吸を整え、ドアをノックしようとしたその時、聞こえてきたのは村山興業の坂口(黒田有)の声だった。学徒出陣で同級生が戦地に出征している中、色恋にうつつを抜かしている場合ではないと、愛助に注意をしに来ていたのだ。愛助も自分が不甲斐ないと認めつつ、坂口はスズ子のことを諦めさせようと「ええかげんな人」「後継ぎと歌手の結婚なんてありえまへんわ」「一時の気の迷いや! ままごとや!」「あの女は野心家や」「ボンのことも利用してるかもしれません」「女は怖いんでっせ」とボロカスにこき下ろす。かつてのUSKの社長室に直談判しに行ったシチュエーションとも似ているが、抑えきれなくなったスズ子はドアを開け、睨みを利かせた坂口と一触即発の状態で第55話は幕を閉じる。 マネージャーの五木(村上新悟)から名前だけが登場している村山興業の社長で愛助の母である村山トミ(小雪)が、第12週の予告でその姿を見せている。振り返ると、吉本興業の吉本せいをモデルにした2017年度後期のNHK連続テレビ小説『わろてんか』でヒロイン・てん(葵わかな)は、旅芸人の藤吉(松坂桃李)と運命的な恋に落ち、いわゆる駆け落ちをすることになる。それぞれの朝ドラで人物設定はまた別だとはいえ、『わろてんか』を例にするとトミは愛助とスズ子の恋愛を許してくれそうな気もするが、果たして。
渡辺彰浩