新宿での焼身自殺未遂事件 報道が少なかったのはなぜ?
そのほか、いくつもの研究で「メディアが自殺を伝えることで、真似た自殺を引き起こす」という結論が出たことを示す。逆に、ウィーンの地下鉄でのセンセーショナルな自殺報道を減らした結果、自殺率は75%減少できた、という。 このため、手引きでは、「自殺をセンセーショナルに扱わない」「自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し報道しない」「写真や映像を用いることにはかなりの慎重を期する」といった注意を、メディア関係者に求めている。 では、国内メディアはあまり報じないのに、海外メディアは積極的に報じているように見えるのはなぜか?大手報道機関(時事通信社)出身のジャーナリスト・石井孝明さんは、「海外メディアは、このところ日本ものは派手なニュースでないと伝えません。また利害関係もない。奇妙さを軸にニュースを選んだのではないでしょうか。私は大手活字メディアにいましたが、自殺の扱いは慎重にすることと学びました。言論統制ではまったくないでしょう」と話す。確かに、海外で今回の自殺未遂を報じても、国内事情が違いすぎて、そのまま共感・模倣されるとは考えにくい。 一方で、石井さんはネットメディアで軽々しくこの事件が拡散されたことを懸念する。「人の命をネタにして、自分のツイッターやフェイスブックの閲覧数を増やしたいのだろうか。恥ずかしい行為。ただ、誰もが悪い人ではないだろうから気づいてほしい」と苦言を呈する。 朝日新聞社は、事件報道の指針の冊子「事件の取材と報道 2012」(191ページ)を公表しており、この中で自殺報道にもページを割いている。1986年のアイドル歌手の岡田有希子さんの事例などをあげ、自殺を報道することによって「連鎖自殺」が引き起こされる危険性を指摘。このため、報道の注意点として(1)自殺の詳しい方法は報道しない (2)原因を決めつけず、背景を含めて報道する (3)自殺した人を美化しない、の3点を示す。