“自分だけのロックマン”が作れる――ロマンあふれる遊びを提唱した『ロックマンメガワールド』の功績
カプコンの看板タイトルのひとつで、1987年にファミリーコンピュータ(ファミコン)用ゲームソフトとして発売された横スクロールアクションゲーム『ロックマン』。そんな『ロックマン』は、続編『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』(以下、ロックマン2)の発売を機にシリーズ化。以降、ファミコン、ゲームボーイ、スーパーファミコンと、任天堂のゲーム機向けに新作を供給し続けた。 【画像】「ロックマン」シリーズと『ロックマンメガワールド』の歩み しかし、1994年10月21日。その流れに変化が生じた。任天堂のゲーム機向けではないロックマンが発売されたのである。それがセガの家庭用ゲーム機、メガドライブ用ゲームソフトとして発売された『ロックマンメガワールド』だ。 ゲームボーイで発売された『ロックマンワールド』と同じく、「ワールド」の名を冠したこの作品。『ロックマンワールド』が続編を出してシリーズ化をしたように、この『ロックマンメガワールド』も今後、同じ流れをたどるのかと思われた。しかし、結果的に続編は出ず、この1作限りで終了。それどころか、メガドライブ向けに発売された『ロックマン』は、本作ただひとつとなった。 その後、セガの家庭用ゲーム機向けには『ロックマンX3』、『ロックマン8 メタルヒーローズ』(以下、ロックマン8)、『ロックマンX4』といった作品がセガサターン向けに発売されている。ただ、これらの作品はソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の家庭用ゲーム機、PlayStationでも発売された、いわゆるマルチプラットフォーム版に当たるものだった(ただ、『ロックマン8』にはセガサターン版独自の要素が存在した)。 それだけに、メガドライブ独自の作品として出た『ロックマンメガワールド』は、発売から30年を迎えたいまもなお、唯一無二の価値を保ち続けている。 それだけでなく、この『ロックマンメガワールド』は、シリーズ随一のロマンティックなセールスポイントを持つ作品でもあった。 そのセールスポイントとは、“自分だけのロックマンを作れる”というシステムだ。 ■過去3作のリメイクを1本にまとめ、完全新作の短編も追加収録した『ロックマンメガワールド』 セールスポイントの話題に入る前に、『ロックマンメガワールド』の内容を少し紹介しておきたい。『ロックマンメガワールド』は、ファミコンで発売された『ロックマン』、『ロックマン2』、そして『ロックマン3 Dr.ワイリーの最期!?』(以下、ロックマン3)を1本にまとめ、グラフィックとサウンドを16ビットスタイルにアレンジしたリメイク兼オムニバスタイトルだ。 「スーパーマリオ」シリーズ4作を1本にまとめ、グラフィックとサウンドを16ビットスタイルにアレンジしたスーパーファミコン用ゲームソフト『スーパーマリオコレクション』の「ロックマン」版と例えれば、どんな内容かが想像しやすいだろう。 ただ本作、『ロックマンメガワールド』は過去作のリメイクのみならず、完全新作も収録されているという際立った特徴を持つ。その完全新作というのが『ワイリータワー』。その名の通り、「ロックマン」シリーズおなじみの宿敵「Dr.ワイリー」が建造したタワー(塔)に挑むもの。ちなみに『ロックマンメガワールド』全体には、タイムマシンの開発に成功し、過去にさかのぼったワイリーの歴史改変の野望阻止に挑むというストーリーが設定されている。 そのストーリー設定にちなんで、『ワイリータワー』は『ロックマン』から『ロックマン3』の3作をエンディングまで終えると解禁され、プレイ可能となる。規模的には短編で、用意されたステージの総数はわずか7つと少ない。しかし、ステージは本作だけのオリジナル。ボスも同じで、中国四大奇書のひとつとして名高い『西遊記』の孫悟空、沙悟浄、猪八戒をモデルにした新キャラクターが主要なボス3体として登場する(ほかに最終ステージ「ワイリータワー」内で対決する大ボスが数体登場する)。 ただし、『西遊記』モチーフのボス3体は他の「ロックマン」シリーズとは異なり、倒しても彼らの持つ武器(特殊武器)を獲得できない。そもそも、『ワイリータワー』には、「ロックマン」シリーズ定番のボスを倒して特殊武器を手に入れるシステム自体がない。なぜなら、本編開始の時点で特殊武器を手に入れてしまっているからである。しかも、その数22種類。加えて、8種類の移動アイテムも獲得済みとなっている。 この獲得済みの武器と移動アイテムとは、『ロックマン』から『ロックマン3』の3作で手に入れたものだ。つまり『ワイリータワー』は、過去の3作で獲得した特殊武器と移動アイテムを用い、ステージとボスの攻略に挑むのである。言うなれば、総力戦だ。 ただし、持ち込める武器は8種類、移動アイテムも3種類までの制限がある。そのため、ステージの攻略開始前には22+8種類から持ち込みたい武器、移動アイテムを選択。それらをすべて決め終えてから、ステージ攻略の本番が始まる仕組みとなっている。 このように『ワイリータワー』には、自分だけの装備を持ったロックマンを作れるも同然なシステムが導入されている。なお、特殊武器の選択は強制ではない。移動アイテムは必ず1種類、装備しなくてはならないが、特殊武器は何も持たず、素のままでステージの攻略に挑む遊び方もできる。これは主要3体のボスが待つステージのみならず、最終ステージの「ワイリータワー」も同じだ。 従来の「ロックマン」シリーズだと、最終ステージは決まってすべての特殊武器が揃った状態で挑む形となる。だが、『ワイリータワー』では、あえて揃っていない状態にしての挑戦が可能。そんな攻略スタイルも許容する、高い自由度も持ちあわせているのである。 また『ロックマンメガワールド』全体の特徴である、途中経過を記録・保存できるバッテリーバックアップ形式のセーブ機能も存在する。2024年現在の視点で見ると、なんてこともない機能だが、当時の「ロックマン」シリーズとしては異例の新機能だった。 それまでの「ロックマン」シリーズは、途中からの再開に当たっては、ゲーム本編の途中で表示されるパスワードの入力が必要とされる「パスワードコンティニュー」のシステムが当たり前だったためだ。それはゲームボーイの『ロックマンワールド』シリーズに限らず、『ロックマンメガワールド』発売の前年、1993年にスーパーファミコンで発売された“新しいロックマン”こと『ロックマンX』でも踏襲されていた。 後にパスワードコンティニューは廃止され、セーブ機能が当たり前となるのだが、その初採用例は『ロックマンメガワールド』。実は「ロックマン」シリーズ全体から見て、ひとつの転機とも言える位置づけの作品でもあるのだ。 ■プレイヤーそれぞれ、固有の武器を持ったロックマンを作れるロマンあふれるシステムが提唱したもの しかし、『ロックマンメガワールド』随一の見所は、自分だけのロックマンを作れるシステムである。 そもそも、自分だけのロックマンが作れるその特徴だけでも、大変ロマンティックなシステムだ。従来の『ロックマン』における特殊武器や移動アイテムは、基本的に作品ごとに数が決まっていて、何を持ち込むか否かをプレイヤーが選べる余地が設けられていなかったためだ。 そんなロックマンが持つ装備を自由に選んで持ち込めるだけでも、このシステムがいかに魅力的で、プレイヤーの心をくすぐるものになっているのかは想像に難くないだろう。また、このシステムは1987年発売の初代『ロックマン』の開発時に掲げられたとされるコンセプト、「答えのあるアクションゲーム」の魅力と可能性を一段階、引き上げたものにもなっている。 「ロックマン」というアクションゲームは、難しいと感じた場面に対し、特殊武器に代表される“答え”を用いることで、楽々と突破できるようになる優しさを秘めたゲームデザインが最大の特徴である。ただ、肝心の特殊武器がすべて揃うのは、決まってゲームが終盤に差し掛かるころ。また、本編を始めて間もない頃は初期装備の「ロックバスター」しかないため、攻略の幅がどうしても狭くなる一面を持ちあわせている。 『ワイリータワー』は、本編の最初から複数の武器を選んで持ち込めるため、さまざまな攻略法を用いてステージ攻略に臨めるようになっている。まさに“答え”が使いたい放題で、プレイヤーごとに独自の攻略スタイルが生まれるのである。 しかも前述したように、特定の武器を持ち込まないとクリア不可能となるような、システムの活用を強制するステージ設計がされていない。あっても、サポートアイテムの「E缶」などが手に入るか否か程度。それゆえ、移動アイテム以外、なんの武器も持っていない“素のロックマン”で全ステージ攻略に挑むやり方でも楽しめる。 もし、強制される作りになっていれば、攻略テンポが乱れたり、システムに対する窮屈な印象も増していただろう。そんな作り手の都合や主張を押し付けることをしていないのも素晴らしく、結果として遊びやすさと自由度が担保されている。何より、プレイヤーごとにさまざまな答えを編み出せる点で、「ロックマン」元来のコンセプトが持つ魅力も引き立てている。 ある意味、複数作品を1本にまとめたタイトルだからこそできたシステムの側面もあるため、特別感もある。少なくとも従来の「ロックマン」シリーズに逆輸入して、真似できるものとは言えないだろう。だが、何らかの「ロックマン」シリーズを遊んだことのある人が思い描いたかもしれない、過去作の武器すべてを扱うロックマンが(制限ありとは言え)動かせるのは非常にロマンティック。それでいて、自分だけのロックマンを作れる楽しさを表現している点からも、まさに『ロックマン』シリーズ随一の夢を表現したシステムと言っても過言ではないだろう。 このようなシステムを持っていたからこそ、『ロックマンメガワールド』は1作限りで終えるには惜しい作品でもあった。次なる『ロックマンメガワールド2』で、『ロックマン4 新たなる野望!!』から『ロックマン6 史上最大の戦い!!』までの後発3作の特殊武器と移動アイテムすべてが使える『ワイリータワー』の続編をやってみたい!あんな武器やこんな武器を使いこなすロックマンの姿を見てみたい! リアルタイムで『ロックマンメガワールド』を遊んだプレイヤーのなかには、そんな夢を思い描いた人もいただろう。かくいう筆者はそんな夢を思い描いて、『ロックマンメガワールド2』の発売を心待ちにしていた人間のひとりだった。 だが、結果的に『ロックマンメガワールド』は1作限りで終わることになってしまった。 ■リメイク作品としては課題も多かったが、この作品が提唱した遊びは以降の『ロックマン』を発展させた貴重なものだった また、『ロックマンメガワールド』自体は課題の残る作品でもあった。特に『ロックマン』から『ロックマン3』のリメイクは、オリジナルのファミコン版をやり込んだプレイヤーからすると賛否の分かれる出来となっている。オリジナル版の象徴的だったシーンの改変、基本攻撃「ロックバスター」の連射力低下、一部ボスの奇妙な強化、爆発演出の迫力低下など、首を傾げたくなる箇所が存在するのである。 何より大きな課題と言えたのが処理落ちだ。メガドライブは、優れた計算能力を持っていたことから、アクションゲームに強いゲーム機との評がある。だが、本作はグラフィックを描き込み過ぎた反動なのか、随所で激しい処理落ちが起こるなど、快適性に難を抱えていた。この処理落ちは『ワイリータワー』でも見られ、一部、演出的に盛り上がりそうなボス戦がテンポ的に厳しいものになってしまっている。 そのため、『ロックマンメガワールド』はリメイク作品として見ると、見過ごせない課題を抱えた内容となっている。しかし、『ワイリータワー』独自のシステムと、オリジナルステージなどの完成度は良好。セーブ機能の搭載によってパスワードをメモする手間が省かれているほか、パスワードそのものがなかった最初の『ロックマン』がクリアしやすくなっているという見所もある。 さらに1UPアイテム、回復アイテムのドロップ率が『ロックマン5 ブルースの罠!?』に近いレベルに上昇、ロックマン自身の耐久力アップと仰け反りの低下などの調整で全体的な難易度も下がり、オリジナル版よりも遊びやすくなっている所もある。なので、一概に悪い作品とも言い難い。そもそも、『ワイリータワー』の存在だけでも独自の価値と大きな魅力がある作品だ。 結局、本作が提唱した自分だけの装備を持ったロックマンが作れるシステムは、後続の新作では深掘りされなかった。パーツを始めとする特殊武器、移動アイテム以外の要素を用いて表現されたぐらいである。 しかし、1997年に発売された『ロックマンDASH』は、自分なりの装備を持ったロックマン(ロック・ヴォルナット)を作るシステムを別の形で突き詰めた作品となった。そして、この自分だけのロックマンを作れる遊びは、2000年代に誕生した“新しいロックマン”が大変素晴らしい形へと昇華させるに至った。『バトルネットワーク ロックマンエグゼ』(以下、ロックマンエグゼ)と、その後継に当たる『流星のロックマン』だ。 プレイヤーそれぞれに答えがあり、それを(対戦などを通して)見せあうこともできる『ロックマンエグゼ』と『流星のロックマン』。この2作はまさに、『ロックマンメガワールド』の『ワイリータワー』が提唱した遊びが、いかに突き詰める意義のあるものだったかを実証した最高の一例とも言えるだろう。 逆に『ワイリータワー』同様、過去作の特殊武器を持ち込める作りの『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』の「Xチャレンジ」は、難易度の高さと特殊武器が活きにくい作りとゲームデザインから、課題を作ってしまった一例とも言えたが。とは言え、こうしたケースからも『ワイリータワー』は、間違いなく『ロックマン』のさらなる進化の可能性を描いた短編作品だったと思える。 長らく、『ロックマンメガワールド』は中古価格の高騰もあり、手が出しにくいタイトルとなっていた。だが、2019年に『メガドライブミニ』の収録タイトルとして復刻。さらに「Nintendo Switch Online + 追加パック」加入者限定の『セガ メガドライブ for Nintendo Switch Onlinee』でも遊べるようになっている。しかも、この復刻版はオリジナルの難点だった処理落ちを軽減させた特別バージョンである。 自分だけのロックマンを作れる、ロマンティックな遊びを提唱したメガドライブでただひとつの『ロックマン』。件の『ワイリータワー』をプレイするには、越えなくてはならない壁がいくつかあるが、もし遊べる環境があれば、ぜひそのロマンあふれる遊びを体験してみてほしい。
シェループ