酒蔵守る「事業承継」、ゼネコン傘下や転職社長が廃業会社復活…後継者不在や製造免許などの課題クリア
「300年以上続く伝統を受け継ぎ、新たな日本酒造りに挑戦していきたい」 【図】酒造業界の主な事業承継のケース
酒蔵の建て替えが進む佐賀市の佐嘉酒造で、地場ゼネコン「地域みらいグループ」(福岡市)の脇山章太社長(49)が力を込めた。
地域みらいは金融機関からの打診を受け、江戸時代の1688年に創業した「窓乃梅酒造」を2020年にグループ化。新銘柄の日本酒「佐嘉」をつくり、22年には窓乃梅酒造の社名を佐嘉酒造に変更した。
地域みらいが酒造会社を傘下に迎えたのは2社目で、本業の知見を生かして酒蔵の建て替えにも着手。最新の醸造設備を持つ「工場棟」を25年に完成させる計画で、窓乃梅酒造創業家の古賀醸治さん(76)は「新しい時代感覚を持ったトップに経営してもらう方が、酒蔵の存続や発展につながる」と期待を寄せる。
「こどもびいる」などの清涼飲料を製造する友桝ホールディングス(佐賀県小城市)が18年に引き継いだのは、後継者問題に悩んでいた京都府の老舗酒造「ハクレイ酒造」だ。友桝は飲料事業の技術者を派遣して日本酒のスパークリング飲料を共同開発するなど、相乗効果を生み出している。
50年前から6割減
酒造業には製造免許が必要だが、国税庁によると、「清酒」の免許がある全国の酒蔵は22年度時点で1536か所と、50年前と比べ約6割も減った。蔵元の高齢化による後継者不在などが背景にある。
加えて同庁は「需給調整」を理由に、日本酒製造免許の新規付与を原則停止している。一方で、酒造会社の運営を引き継いだ場合は免許も移行できるため、近年、伝統ある酒蔵を事業承継で守る動きが目立っている。
光栄菊酒造(小城市)の日下智社長(58)は約5年前、日本酒の潜在力に魅力を感じ、テレビ関連の仕事から転身した。関西で廃業予定となっていた酒造会社を継いで免許を取得し、06年に廃業していた旧光栄菊酒造の酒蔵を購入。杜氏を新たに迎え入れ、光栄菊酒造を復活させた。
欧米に向けて酒の輸出も始めており、日下社長は「海外で日本酒がワインのように評価されることを目指す」と意気込む。