内部告発で発覚したJ2長崎の観客数水増し事件はなぜ起きたのか?
長崎市ではなく諫早市にあるトランスコスモススタジアム長崎は交通アクセスが不便で、たとえばJR長崎駅からバスを利用した場合、最寄りの停留所まで1時間を要する。JR線でも諫早駅まで30分、そこからバスと徒歩でさらに10分、徒歩だけだと実に25分も要する。 近隣の県にもJクラブが存在することと相まって、必然的に入場料収入もシーズンを重ねるごとに激減する。開示されている2016年度のそれはJ2ワースト2位の7400万円で、初めてJ2を戦い、6位に食い込んだ2013年度の1億3200万円から実に5800万円減となっている。 観客数が減れば、スタジアム内に看板広告を出したいと望む企業も減る。広告料収入は2013年度の2億4800万円から翌年度は期待値込みで5億200万円に増えたが、以降は4億4000万円、3億5900万円と同じく激減傾向にある。 それでもJ1昇格を果たすべく、支出の柱となるチーム人件費は2016年度までの過去3年で3億3500万円、3億4800万円、3億2200万円とほぼ横ばいを続けている。それでいて収入が減少していく非情な現実に、すでに退職した運営担当者は少なからず重圧を感じていたはずだ。 「一般論で申し上げれば、入場者数を多く見せたいという上の意向があったと。そういったものを斟酌した結果として暗黙のプレッシャーを感じて、そこへ入場者数算定ルールを勘違いしていたことも含めて、このような行為に及んだと運営担当者レベルでは話しています」 意図的な改ざんはなかったと結論づけた、Jリーグ経営本部の鈴木正雄本部長が言及した“上”とは旧経営陣のこと。2015年度の当期純利益が200万円の黒字だった長崎は、一転して2016年度には1億3800万円の大幅かつ不可解な赤字を計上。経営問題に発展するなかで昨年末から多くの内部告発がJリーグ側に寄せられた。 Jリーグは旧経営陣にまず自浄を促したが、プロセスがおぼつかなかったこともあり、年明けから直接介入することを決定。調査を依頼した弁護士事務所にコンプライアンス相談窓口も設置したところ、チーム内の人間と思われる人物が入場者数の水増しを告発してきた。 そして、開幕まで1ヶ月を切った段階で池ノ上俊一社長、岩本文昭専務、服部順一GMが電撃退任。紆余曲折をへた末に、筆頭株主の通信販売大手ジャパネットホールディングス(本社・長崎県佐世保市)が長崎を子会社化。4月25日に創業者の高田明氏が社長に就任し、経営再建を進めてきた。 テレビCMへの出演などでお茶の間でも有名な高田新社長は、就任直後にJリーグによる調査結果を受け取り、そのなかでも特に問題視された入場者数の算定方式の是正にすぐ対応。過去2年にわたって差分をも精査して報告した姿勢に、理事会後の記者会見で村井チェアマンはこう言及している。 「結果として不正確な数字が計上されたことは非常に残念ですが、新しい経営陣が健全化へ向けて全力を尽くされているなかで、自ら是正の調査が行われたと認識しています」 元日本代表FWの高木琢也監督のもと、4年間で2度もJ1昇格プレーオフへ進出した長崎は今シーズンも4位と奮闘している。悲願のJ1昇格を目指したピッチ内だけでなく、旧経営陣のもとで溜まった膿を出し切り、経営再建と信頼回復を目指すピッチ外の戦いも続く。 (文責・藤江直人/スポーツライター)