世界水泳 銀獲得の荻野の誤算と次なる狙い
初出場の世界選手権を、個人6種目と4×200mリレーに出場する冒険の舞台にしようとする萩野公介。競泳初日、7月28日の男子400m自由形では、昨年のロンドン五輪を思い起こさせるような快挙を演じた。 午前中の予選は楽に泳いで3分46秒92。本人は「前半はゆっくり行って後半をちょっとあげただけなので、46秒は上出来。前半の200mを予選より2~3秒速い1分50秒か51秒くらいで回れれば、設定している3分44秒中盤は出ると思う」と余裕を持っていた。その泳ぎをみて彼を指導する平井伯昌コーチは「最低での3分43秒台」と目標を設定し直し。 「隣の5レーンを泳ぐライアン・コクレーン(カナダ)を抜けば銀メダルも可 能だ」と萩野に指示をしたのだ。 だが決勝はほとんどの選手がメダルを狙って前半を抑える予想外の展開になってしまった。 最初の50mは1レーンのコノール・イエガー(アメリカ)と6レーンの萩野が飛び出す展開になったが、「そのまま突っ走ったイエガーも見えていたなら彼を目標に出来たかもしれないが、楽に行って抜け出てしまったのでコクレーンを意識してか少し抑え過ぎてしまった」と平井コーチが言うように、スピードを落した萩野の200m通過は、思惑より1秒以上遅い1分52秒57での5位通過となった。 だが、大本命の孫楊(中国)には別格の泳ぎをされたが、350mを過ぎてからは3番手に抜け出していたコクレーンに激しく競りかける。そしてラスト5mで競り勝つと、その勢いで落ちてきたイエガーも0秒03交わして3分44秒82の日本記録で銀メダルを獲得したのだ。 「400m自由形のトップクラスの選手と泳ぐのは初めてなので、自分のペースでレースを運べなかった。銀メダルは嬉しいが、タイムや泳ぎの内容には納得できない」と、日本記録更新にもやや不満気な表情を見せる萩野。アメリカ留学を断念して東洋大に入学して平井伯昌コーチの指導を受けることを聞けた彼は、昨年末からチーム平井に合流して五輪メダリストの松田丈志などと競り合う練習をこなし、子供の頃からの夢だったマイケル・フェルプス(アメリカ)のような多種目で勝負できる選手への道を目指し始めた。 その第一歩が、日本選手権での6種目出場5冠獲得であり、この世界選手権は第2歩目でもある。だが、彼が400m自由形を泳ぐのは昨年のインターハイ以来4回目。彼自身がこの種目のレース展開にまだまだ慣れていず、自分のペースを保てなかったのが目標タイムに届かなかった大きな要因だ。 「予想外の展開で3分44秒台の記録で100分の何秒差の運のいいメダルだったが、競り勝てたのは大きい。この結果や男女の400mリレーなど、僅差がいい方向に転んだラッキーな結果はチームに勢いを付けるものだと思う」と平井コーチは苦笑する。 経験不足を天性の素質でねじ伏せる結果はチームだけでなく、多種目挑戦で複数のメダルを目標にする萩野自身の挑戦にも、勢いを付けたはずだ。 (文責・折山淑美/スポーツライター)