吃音芸人「僕を見て笑って」 ドッキリ企画が物議、「表現」か「嘲笑」か #ニュースその後
寄せられたテレビ局への抗議
転機となったのは、思いがけずも実現したTBSの人気番組「水曜日のダウンタウン」への出演。昨年7月に放送された番組はドッキリで、先輩芸人のチャンス大城さんから理不尽な理由で叱られるというもの。 「めめめ、面談、面談に来たみたい」などとどもってしまい、その様子がスタジオの笑いを誘った。 「テレビ出演に手応えを感じていました」というインたけさんの思いとは裏腹に、事態は予想外の展開をたどる。 放送後、NPO法人「日本吃音協会」(東京都)が吃音者をからかうような内容だったとして、TBSに表現上の配慮を求める抗議文を提出した。 自身も吃音があり、当時、同協会の理事長だった藤本浩士さん(40)は「番組を見た当事者の会員から『昔のいじめられた記憶がフラッシュバックした』などの声が寄せられ、TBSに対し編集上の配慮を求めました」と話す。
「もうテレビに出られなくなるのでは」
協会がSNS(ネット交流サービス)で抗議を公表すると、ネットで賛否を呼んだ。抗議に共感の声を上げる意見があった一方で「吃音が笑われているわけではない」「吃音者がテレビに出られなくなる」といった意見が相次いだ。 インたけさん自身は、番組で吃音がからかわれたとは全く感じていなかっただけに「突然のことでびっくりしました」。騒動後はX(ツイッター)で「またテレビジョン出たい‼」とだけつぶやき、沈黙を貫いた。 マイナー芸人にとってテレビ出演の価値は大きい。事を荒立てることになり「もう出られなくなるのではないか」と感じたからだ。
「自分がやりたいことを諦めない」
騒動から1年。戸惑いつつも「僕を通じて、吃音に対する理解がもっと広まればいいのではないか」との気持ちになった。今年8月、当事者でつくる自助団体「言友会」の関東ブロック大会に招かれた。 持ちネタを披露し、講演では自身の半生を振り返り、こう訴えていた。「吃音の個性を認め、支えてくれる仲間もいます。決して自分がやりたいことを諦めないでほしいです」。それは自身への励ましでもあった。 「僕の芸を見て、笑って、少しでも楽になる当事者が増えればいい」と思う半面、吃音を理由にテレビに出にくくなるのではないかとの不安も残る。だからこそ吃音への理解をこれからは広げようと決めている。