【独自】千葉・柏 夫婦殺害&住宅全焼事件 容疑者の関係者が明かした「事件の動機と警察の不手際」
窃盗と収監を繰り返す半生
東京のベッドタウンとして知られる千葉県柏市。12月11日、JR柏駅から南東に車で15分ほどの距離にある高柳地区の住宅街で、高齢の男女が激しく言い合う姿を目撃した住民がいた。 【画像】すごい…!退院した容疑者の「素顔写真」…! 「またあんた、騙されちゃうんじゃないの」 女性がきつく問うと、男が怒鳴り返す。 「もし騙されたとしたら、俺はもう許さねえよ」 「あいつをぶっ殺して、俺も死んでやる」 惨劇が起きたのは、この日から1週間後の12月18日だった。 「夕方6時過ぎ、この男女が口論していた戸建ての借家から出火し、付近の住宅を含めて8棟が全焼する火災がありました。一方、この火災の少し前には、600mほど離れた住宅で、この家に住んでいた渡来(わたらい)敏明さん(59)と礼子さん(59)夫妻が刺殺される事件もあった。 千葉県警は翌日、燃えた借家の住人で、放火容疑で行方を追っていた職業不詳の酒巻馨容疑者(77)を公務執行妨害で逮捕しています。県警は、この男が夫妻の殺害についても事情を知っている可能性があるとみて捜査しています」(全国紙社会部記者) あらためて発生順に並べると、夫妻を殺害したのち、自宅にも火を放った疑いが持たれている酒巻。彼が一連の事件の犯人だとしたら、なぜこのような行動に出たのか。そして、1週間前に目撃された口論と、事件との関連はあるのか。 「FRIDAYデジタル」はこのほど、酒巻を知る、ごく近い関係者から話を聞くことができた。その人物の話からは、事件前の酒巻の混濁した言動が浮かんでくる。 「酒巻さんは11月下旬に、横浜刑務所を満期で出所してきました。彼はこれまでに、おそらく8回くらいの刑務所生活を送っていて、多くの場合、スーパーで食料品を万引きするなどの窃盗で捕まっていたと思います。彼はクレプトマニア(盗癖)のようなところがあり、イライラが募ると、盗みをすることでストレスを解消していた。 出所後の酒巻さんが戻ったのが高柳地区の借家で、彼には妻がいて30年以上つれ添っていました。しかし刑務所に入る前から、妻や妻の連れ子たちを殴ったり、大きな声で罵ったり、あるときは包丁を突きつけるなど家庭内暴力(DV)が繰り返されていた」(関係者) 事件の1週間前に口論を目撃された女性は、この妻だとみられる。一方で、酒巻と渡来夫妻は、遠戚関係にあたるという。 「酒巻さんの一族は、あの地域一帯の地主でした。なかでも酒巻さんの家は本家筋で、酒巻さんの母親が婿を迎えて家を継いでいた。数年前まで健在だった母親は酒巻さんを溺愛し、酒巻さんのために、保有する土地を売ってお金を与えていたといいます。 20年ほど前、酒巻さんは、不動産業を営み、父親の頃からの付き合いもあった渡来さんに、土地を1700万円ほどで売却しています。酒巻さんはこのとき、資金繰りに困っていた渡来さんに、土地の売却代金から700万円を貸したといいます」(同前) ◆出所のたびに高級車を購入 酒巻から借金するにあたり、渡来さんは借用書も作成した。しかし、返済は当初の計画どおりに進まず、あるときは渡来さんが、妻や子どもたちを伴って酒巻のもとを訪れ、家族で返済の遅れを詫びたこともあった。 渡来さんはこのほかにも、200万円ほどを酒巻から借りたことがあったという。お金のやりとりをめぐるある種のルーズさが、渡来さんに対する酒巻の見方をかたちづくった可能性があるというのだ。 一方、酒巻の生活は、一家の資産をもってしても賄えなかった。 「酒巻さんは車が好きで、これまでにトヨタ・クラウンアスリートや日産・グロリアなど、400万円は下らない高級車を次々に乗り継いできた。酒巻さんの盗癖は抑えられず、このために刑務所に入っては出てを繰り返す半生だったのですが、出所するたびに新しい車を購入してしまうのです。 こんなふうに浪費してしまうので、今年11月下旬に出所してきたときには、彼と妻との間に財産といえるものは200万円程度しかなかったといいます」(同前) 出所直後の酒巻は、77歳という年齢を顧みず「新しい仕事を探す」と語っていたこともあったという。しかし、酒巻は新しい生活基盤を築く前に、妻との離婚を決断している。 「酒巻さんは出所後から、妻に『俺は1人でもやっていけるから、お前、出ていけ』と言うようになった。どうしてそんなことを言いだしたかわからないが、離婚することは12月6日前後には決まったといいます。 そのうえで酒巻さんは『離婚するなら財産は半分ずつだ』と言って、200万円の半分を妻に渡して、出ていくように言ったのです」(同前) ところが妻と離婚したあとも、酒巻の身勝手な言動は続いた。 「家を出ていった元妻に対して『俺だ。いままでごめんな。俺、腹くくったんだ。もう死ぬからさ』などという電話がかかってくるようになったのです。そして、元妻と分けあった彼の100万円に関して、『トシ(渡来さんのこと)に渡したから、あいつから受けとれ』などと伝えてきたのです」(同前) ここで、冒頭の12月11日の場面に戻ろう。この日までに元妻は、酒巻と渡来さんの双方から「100万円を渡したい」と連絡を受けたことなどもあって、数日ぶりに酒巻の自宅を訪ねていた。そこで酒巻は「トシにカネを渡してあるから、ちょっと待ってろ」と言って、渡来さんに電話した。 「ところが渡来さんは『いま外出先だから、すぐには行けない』などと(酒巻に)伝えてきた。当初は『午後3時30分には行く』と言っていたのが4時30分に後ろ倒しになり、最後は6時を過ぎても来なかった。酒巻さんは怒りに満ちた表情で、震えるような異様な様子だった。DV被害のこともあったので、警察を呼ぶ事態になりました」(同前) 酒巻に近いこの関係者によると、この日から渡来さん夫妻の刺殺事件の発生まで、酒巻がどのように過ごしたかはわからない点が多いという。 ◆「あのとき逮捕してくれていれば」 また、酒巻が元妻に100万円を渡そうとした理由も不明なままだ。 「酒巻さんはこれまで刑務所に入るとき、その時点で手元にあった現金や通帳を持ち込み、外で待っている元妻にはいっさい触れさせなかった。そのうえで元妻には『刑務所内の生活に毎月3万円必要だ』などとうそをついてお金を送らせ、そのお金を貯めこんでは出所すると使っていた。 彼はお金に対してものすごい執着があるんです。そんな彼がなぜ今回、元妻に現金を渡そうとしたのか。 酒巻は、自分では銀行で預金を下ろすこともできないし、ガラケーの携帯電話を操作することもできない。妻との別れが決まって少し時間が経過したことで、高齢で仕事もなく、それでも1人で生きていかなければいけないという現実に直面し、なにか思うところがあったのかもしれない」(同前) 妻と別れることになって、酒巻はよく「俺は1人じゃ生きていけねえ。俺は警察に行った方がいい」と言っていたという。 「『警察に行く』というのは、手慣れた窃盗などの罪を犯して収監され、刑務所で残りの人生を過ごすことを意味するんだろうと思う。次に収監されたら、刑務所内で人生を終えると悟っていた。したがってお金は必要なく、だからこそ元妻に渡そうと考えたのかもしれません」(同前) 〝覚悟〟がこもった100万円を、最後に元妻に託そうとしたが、渡来さんの事情で渡せないまま時間が過ぎた。1週間後、渡来さんの自宅を訪ね、夫妻と向き合った酒巻の胸にはどんな感情がわき上がったのか――。 酒巻に近いこの関係者は、今回、本誌の取材に応じるにあたり、ある後悔が胸にあったという。 「酒巻さんが妻と口論した12月11日、警察が駆けつけたときに私もその場にいました。そこで警察官に、窃盗で酒巻さんを逮捕するよう訴えたのです。 実は酒巻さんは、自宅にあった元妻の知人の現金2000円ほどを盗んでいた。あのときの酒巻さんは興奮状態でなにをするかわからず、家庭内で暴力を振るっていたことも知っていたので、窃盗を口実に、警察の手で逮捕してもらったほうが安全だと考えたんです。 しかし、この警察官は動いてくれなかった。不安だった私は、その足で柏署にも行き、酒巻さんの窃盗について説明しました。担当した警察官は、この日は『後日、調書をつくるので来てもらえませんか』と言っていたのですが、翌日になると担当も変わり『検討します』『また連絡します』と後ろ向きになってしまった。 酒巻さんの窃盗の捜査に関してはそれから進まず、結果的にあのような事件が起こってしまった。あのとき、警察が酒巻さんを逮捕してくれれば、渡来さん夫妻も亡くなることはなかったと思うと苦しくて……。事件までに、警察との間でこうしたやりとりがあったことも知ってほしくて、取材に応じることを決めました」 放火事件の火災に巻き込まれた酒巻は、下半身や顔の一部にやけどを負い、一時入院して治療を行った。現在は退院し、まもなく本格的な取り調べが始まる見通しだという。 取材・文:宮下直之 naoyukimiyashita@pm.me 取材・文:宮下直之(ノンフィクションライター)
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