伊藤大海、2冠タイトル王手も「まだエースにあらず」。新庄監督が寄せる大いなる期待【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#234】
波がない、崩れない
ルーキーイヤーは打線の援護がなく、なかなか勝ち運に恵まれなかった。ベンチで涙する姿をTVカメラに抜かれたこともある。負け数も多く、全幅の信頼は得られなかった。チーム事情でクローザーを任されそうになったこともある。WBCの後は燃え尽き症候群のようになって、気持ちをつくるのに苦労した。「やる気ないなら出てくるな」「好不調の波が大きすぎる」とSNSで叩かれもした。それでも周囲の期待は「次代のエース」だった。伊藤大海のポテンシャルはもちろんそのスケールだ。上沢直之がアメリカへ旅立った今シーズンは飛躍のチャンスでもあった。楽天23回戦、1人で投げ抜いたのはそういう文脈の上にある。 9回126球、被安打9、失点1、奪三振8、与四球2。もう「試合をつくった」では足りない。そういう格ではない。勝つピッチングをやり切った。被安打9でわかるように決してピシャリと抑え込んだわけじゃない。が、要所を締めて、勝つピッチングをやり切った。結果、スミ1だ。福岡では有原の後をうけたリリーフが西武に逆転負けを喫した。結果、大海は14勝でハーラーの単独トップに立つ。残り試合を考えると(次回登板の有原に並ばれることはあっても)大海の最多勝はほぼ確定ではないか。同時に最高勝率(14勝4敗、.778)の2冠にも王手をかけた。 今シーズンの大海を見てるとメンタル面の充実を思わずにいられない。いや、単に「強気」とか「闘争心」というだけでもない(もちろん、それが一番だが)のだ。ブレない。波がない。試合全体を見通して、大局観のなかで投げている。気持ちが揺れないし、崩れないのだ。一個一個の球よりもメンタルに感じ入る。WBCの燃え尽き症候群の逸話でもわかる通り、大海は気持ちのピッチャーなのだろう。 勝利14、完投5、完封4は、すべて9/27時点で12球団トップだ。ファンは「沢村賞あるんでないの?」とつい考えてしまう。但し、そこは新庄監督がしっかりクギを刺している。 「ファイターズのピッチャーのなかでいちばん野球のうまいピッチャーになりました。エースではないです。もっと上を目指せるピッチャーになる。球界のエースになる素質は十分ある。まだ褒めるわけにいきません」(試合後、新庄監督コメント) 清宮に対してもそうだが、新庄監督はこの姿勢を崩さない。僕は大谷翔平がどんなにすごいことをやってのけても「普通です」とコメントし続けた栗山英樹・前監督のことを思い出す。楽天23回戦はまさにそうだが、そうやってツンデレ(?)で育てた投打の柱が見事に結果を出している。ポストシーズンの経験で若いチームがどんな風に成長するか、今から楽しみじゃないか。 えのきどいちろう