“欧州最貧国”の声も何のその モルドバから「LVMHプライズ」を驚かせたデザイナーら注目株3選
ファッションの素晴らしいところは、拠点とする国の経済状況が、必ずしもネガティブには働かないことである。むしろ、資源不足などの要素が創造性を育む要因になったり、閉ざされた環境が独自の文化と伝統を守ることにつながったりもする。キシナウの滞在中に多くのデザイナーを取材して、さらに強くそう感じた。今後注目を集めそうな3ブランドを紹介する。
1.“時”を操る最注目の鬼才
FIDAN NOVRUZOVA
アゼルバイジャン人の両親のもと、モルドバで生まれ育ったフィダン・ノブルゾバ(Fidan Novruzova)は、2024年の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」のセミファイナリストに選出された現地の最注目デザイナーである。イギリスの名門セントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)でウィメンズウエアのデザインを学び、「バーバリー(BURBERRY)」でのインターンを経て、2020年に自身の名を冠したブランドをキシナウで立ち上げた。卒業制作で披露した、角ばったスクエアトーにワイドでオーバーサイズなボディーのブーツが注目を浴び、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)が着用したことで人気に火がついた。ウエアも含めデビューコレクションからカナダ発EC「エッセンス(SSENSE)」での取り扱いが始まり、現在は小売店とECで世界に10アカウントを抱える。
ブランドのコンセプトは、「“モダン・ノスタルジア”の概念を再定義すること」だとノブルゾバは語る。「私のヘリテージや経験を過去のファッションと重ね、私の視点からコンテンポラリーに刷新することを目指してる」という。主に1920~80年代のさまざまなスタイルを基盤に、現代的なひねりを加えて奇妙さの中に親しみやすさを忍ばる。旬なテイストを盛り込みながらどこか懐かしさも感じるレトロフューチャリスティックなデザインが、現在の潮流ともマッチしているようだ。