『ミライヘキミト。』で「本当の家族のようになれた!」川島鈴遥、西田尚美、斉藤陽一郎、ウエダアツシ監督が語る舞台裏
『うみべの女の子』(21)のウエダアツシ監督が、ある家族を通して異なる世代の青春を映しだすウェブ映画『ミライヘキミト。』が作品公式YouTubeチャンネルにて8月16日(金)より配信されている。本作で心温まる家族を演じた川島鈴遥、西田尚美、斉藤陽一郎とウエダ監督にインタビュー。撮影を通して本当の家族のようになれたと言うキャストとウエダ監督による和気あいあいとしたクロストークをお届けする。 【写真を見る】見た目が美しく、揚げる音も食欲をそそる金目鯛の松笠焼。“松ぼっくり”に見立てた逸品 鮮烈な長編映画初監督作『リュウグウノツカイ』(14)を皮切りに、『桜ノ雨』(16)、『うみべの女の子』など様々な青春のきらめきを映しだしてきたウエダ監督。本作はサミュエル・ウルマンの名詩「青春の詩」からインスパイアされた自身のオリジナル脚本による作品となり、4話に分けて配信される。進学、転職、結婚、セカンドキャリアなど、人生のターニングポイントを迎えるヒロインたちの悩みと、彼女たちが取り巻く家族の物語を映しだす。 ■「まだ知らないことがあるんだという発見があったりすると、すごくうれしくなります」(西田) ――まずはウエダ監督の脚本を読まれた感想を聞かせてください。 川島鈴遥(以下、川島)「それぞれの話がおもしろくて、作品に入るのが楽しみでした。第1話は進路に悩みを抱えた由宇の話ですが、きっと学生時代に誰もが経験するような等身大の悩みかなと。自分自身もこれからどうやって進んでいこうかなと思い悩んだ時の感覚を思い出しながら演じました」 西田尚美(以下、西田)「私が演じる母の羽菜は専業主婦で、ようやく子離れしてきたというか、子育てからやっと手が離れてくる年齢で、自分はいままで家族のために生きてきたけれど、ここからどうしようかなと考えていきます。すごく共感できる役柄で、おそらく自分ももうすぐそういう時がやってくるんだろうなと想像しながら演じました。また、年を重ねていくと、常に学ぶことや知ることがあるというか、若いころにはあまり重要視しなかったことが、実はすごく大事だなと感じるようになっていきます。もう50年も生きてきたのに、まだ知らないことがあるんだという発見があったりすると、すごくうれしくなりますね」 斉藤陽一郎(以下、斉藤)「僕は脚本を読んで、女性の成長物語だなと思いました。どんどん社会が女性に対して平等に開かれていくきっかけを表現しているような作品だなと。だから僕はなるべく邪魔しないようにする“おふざけポジション”とでも言いますか。男性1人で肩身が狭い感じに映るかもしれませんが、本人はそう思っていなくて、実はジャストフィットな感じという(笑)。家族を愛してることが伝わるような存在として映るといいなと思いながら演じました」 ――ウエダ監督は、脚本を手掛けるうえでどういう点にこだわられたのですか? ウエダアツシ(以下、ウエダ)「最初はロケ地の景色やご飯など、映像を観た皆さんが渡利家という家族の暮らしに憧れるというか、少し羨ましく思えるような脚本にしたいと思いました。渡利家は女性が多い家庭ですが、陽一郎さんが上手く緩衝材になっていただいたかなと。みんながお父さんをいじることで家族が明るく笑えるという空気感を出してもらえました。それは最初から設計できていたわけではなく、現場で皆さんが作っていってくれたなと思います」 斉藤「それって無茶ぶりしてもいいや、みたいなことですか(笑)。いやいや、でもすごく楽しかったです」 ■「会話も本番のまま続いていく感じで、本物の家族のようでした」(ウエダ) ――ヒロインたちのターニングポイントと“青春”を描くほか、各話に登場する渡利家の皆さんが食卓を囲むシーンも印象的でした。今回はらゆうこさんがフードコーディネーターとして入っていて、どの料理も実においしそうです。皆さんのお気に入りのメニューを教えてください。 斉藤「本当にどれもおいしくて、撮影が終わってもその場を離れなかったです。全部たいらげて、お昼休憩でのお弁当もおいしくてさらに食べる、みたいな。でも食が家族をどんどんつなげてくれたなと思います」 川島「私は最初の食事シーンで出てきたシラス丼が一番印象に残っています。どういうアングルで撮ればおいしそうに映るのかと研究されていて、その間に家族みんなで談笑できて仲良くなれました。最初は緊張していたけど、シラス丼をひと口食べたら本当においしくて。確かにカットがかかっても食べ続け、そこで家族になれた気がします」 斉藤「おいしいものを共有するだけで、つながりができるもんね。僕は一つ答えるとしたら松笠焼です。いままで食べたことがなかったし、味も食感も含めてとてもいい体験ができました。熱い油をかけたときの音もおいしそうすぎてヤバかったです!」 西田「娘たちが油をかけてくれましたよね」 川島「本当に熱かったです(笑)」 ウエダ監督「すいません(笑)」 斉藤「でも、子どもたちがやってくれちゃうところが贅沢でよかったです」 西田「撮影しながら、映画に匂いが映ればいいのにと思いました!ご飯が炊ける匂いや野菜を茹でた時の匂いなども本当においしそうだったから。それで実際に映像を観てみたら、本当においしそうに映っていたので、現場でこだわって、何度も何度も撮った甲斐があったなと思いました」 斉藤「アハハ!撮影が押したと伝えたかった?」 全員「アハハハ!」 西田「ほめているんです(笑)。例えばリアルな湯気を狙って撮っていたメニューもありましたが、時間の都合でそこまでできる現場とできない現場があると思うんです。今回のウエダ組は、そこにこだわられて撮っていたと思います」 ――ウエダ監督は、皆さんがあまりにも楽しそうに食べているので、カットをかけづらかったそうですね。 ウエダ監督「もちろんカットをかけるんですけど、皆さん食べ続けるんです(笑)」 川島「次のシーンもあるのに、延々と食べちゃってました」 ウエダ監督「会話も本番のまま続いていく感じで、本物の家族のようでした(笑)」 ■「ウエダ監督はおもしろパートに関してかなりストイックなこだわりがあります」(斉藤) ――ほかにも、ウエダ監督の演出が印象的だったシーンを教えてください。 斉藤「おもしろパートに関してウエダ監督はストイックなこだわりがありました!」 ――具体的にどういったシーンになりますか? 斉藤「例えば“夏野菜のカレー”を出すシーンです。何度やっても『なんか違います』と言われ、最終的に『“サマーベジダブル&シーフードカレー”と言ってください』となりました(笑)。ウエダ監督は本当に楽しいものを作るために、一生懸命、現場を回してくださるので、僕ら家族はそんな監督に乗っかっていった感じでした」 西田「私は洗濯物を取り込みながらお父さんと会話をするシーンがおもしろかったです。監督から『洗濯物のなかには乾いてないものもある』というニュアンスの会話をしてくださいと言われました。計算しすぎてもあざとくなるので、その塩梅がすごく難しかったのですが、なるほど、こういう演出をされるんだ!と新鮮に思いました」 ウエダ監督「僕はめちゃくちゃ大好きなシーンになりました」 川島「私もそのシーン、大好きです!」 斉藤「お母さんの手が止まってないところがいいですね」 ウエダ監督「お父さんの話を聞いているけど、自分の手は止めないというのが主婦ならではです。ちょっとお父さんがないがしろにされている感じも出るのでいいかなと。撮影当日の日当たりが微妙だったことで思いついただけなんですが(笑)」 ――川島さんは、どんなシーンが印象に残っていますか? 川島「自分のシーンではないのですが、エビを食べるシーンのこだわりが強かったと思いました(笑)。おそらく角度の問題だったのかもしれませんね」 全員「ハハハ(爆笑)」 ――お寿司のエビを食べていたお父さんが、ある発言にびっくりして、口からエビが半分飛び出すシーンですね。予告編にもありました。 西田「きっとかじって口から引いた時、身と尻尾のちょうどいい出具合のバランスが大事だったんですよ。ちゃんとエビを食べていることがわかるように『もうちょっと身が出ていてほしい』という思いがあったのかなと」 斉藤「あのシーンですごいなと思ったのは、浅田さんが『父ちゃん、このエビがいいよ』と選んでセッティングしてくれたことです」 川島「確かごはんの分量も半分にしてくれましたよね」 斉藤「そうそう。そうするとエビが出やすくなるので。これが昭和レジェンドのテクニックか!と思いました(笑)。浅田さんはいつもどっしりと祖母としていてくださって、みんなを引っ張ってくれた感じです。また、長女の咲季を演じた平祐奈ちゃんも、実際には長女じゃないのに、すごくしっかりしていて芯の強さを感じ、お父さんが引っ張れない分、ちゃんと裏で回してくれたという印象があります」 ■「私は“大人になる”ということをはき違えていたんだなという学びがありました」(川島) ――本作は「青春とは人生のある時間をさすのではなく、心の状態をいうのだ」といったサミュエル・ウルマンの詩が効果的に挿入されていますが、皆さんはどう感じましたか? 斉藤「女性はみんな悩んでつまずきつつも、本を読んでもう一度、青春に向き合っていく。そういう成長が描かれていきますが、お父さんに至っては全然変わらない(笑)。でも、逆に言えば、お父さんはかつて、もうすでに読んでいて、いまも青春真っ只なかなのかなとも解釈しました」 川島「由宇ちゃんの第1話は、部活や進路、幼馴染みの男の子などの話で、まさに世間で言う青春そのものだなと思いました。でも、私自身で言えば、実は小さいころから本当に大人になるのが嫌だったし、不安だなと思っていたんです」 ――なぜ、不安だったのですか? 川島「大人はひとりぼっちで、自分1人でいろんなこと決断しなきゃいけない。それなら周りから守られている子どものままでいて、こうしたらいいという選択肢を与えられているほうが楽なんじゃないかと思っていたんです。でも、今回『青春の詩』を読んで、自分自身でその考え方は変えていけるんだなと感じました。子ども心を忘れないことや、若くても楽しむ心がなかったら人は老いてしまうということなどが書かれていて、私は“大人になる”ということをはき違えていたんだなという学びがありました。だからすごく好きな詩になりました!」 西田「私もあの詩は『うんうん。そうだよね』と自分に言い聞かせながら読みました。とてもいい詩で、自分自身も納得できた内容です。自分のやりたいことをやれて、周りから『やればいいじゃない』と応援されるなんてすてきなことだし、私自身もなんだか青春しているなと、演じながら思えました」 ウエダ監督「僕が特に好きな部分は、具体的な年齢を提示しているところです。日本では、年配の方に『まだまだお若いですよ』という感じで年齢をオブラートに包んだりしますが、あの詩は『時には、20歳の若者よりも60歳の人に青春がある』と具体的だから、そうなんだなと思えますし、そういう応援の仕方がいいですよね。各話で読んでもらう箇所を少しずつ変えているので、観てくれた方が、どこかで自分にも当てはまる一文に出会えればいいなと思いました」 ――では、最後に、お父さん役の斉藤さんに締めていただきましょう! 斉藤「僕ですか!?いやあ(笑)。でも浅田さんもおっしゃられていましたが、この映画はすごく温かいです。その温かさや優しい目線は、たぶんウエダ監督の人柄によるところも大きいと思います。そういうものは自然と画に映ってしまうものですから。また、僕はこれまでにいろんな家族の役を演じてきましたが、ここまでいっきにみんなが家族になれたというのは本当に珍しい現場だったと思います。だから僕にとっては宝物の1本になりました!」 取材・文/山崎伸子