遠い国から日本に向けて情報発信 彼の地のことを届ける日本人たち(レビュー)
私が幼いころ、本や映像で紹介される外国は、憧れと驚きに満ちた手の届かない場所だった。だが世界は狭くなった。ほとんどの国は、行くことも関わることも可能だ。 本書の編著者であるアーヤ藍は2011年、大学のアラビア語研修でシリアにいた。平和な日常があり、人々に温かく迎えられた。アーヤという名もそこでもらった名前だ。 再訪を約束し帰国した直後、戦争が始まる。友人に連絡がつかず生死もわからない。情報を求めていた時、青年海外協力隊員としてシリア難民の支援をしていた斉藤亮平と知り合う。 状況が厳しいことはわかっていても斉藤は明るかった。 「こんな風に遠い場所のことを日本に届ける人が居る」と知ったアーヤは、様々な国の情報を同じ目線で発信している日本人にインタビューを行うことを決意した。 約30年間も日本が委任統治をしていたマーシャル諸島共和国に残る太平洋戦争の歴史と現状を、ドキュメンタリー映画『タリナイ』という作品を通して世に問う大川史織。 マダガスカルの特産品バニラを、生産者と消費者の間で公正に繋ぐことを目指す武末克久。 ウガンダで子ども兵の問題を研究する大平和希子は、現地で土地の人と飾らない関係を築きあげた。 スノーボーダーの先駆者、遠藤励はグリーンランドのイヌイットと生活を共にして気候変動や民俗文化の変遷を写真に収めている。 映画配給会社に就職したアーヤは環境や人権、戦争、経済などメッセージ性の強い映画を配給する傍ら、インタビューした人たちが関わったり、その土地の問題を提起したりした映画に思いを馳せる。本書で紹介されたドキュメンタリー映画はぜひ観てほしい作品ばかり。これらすべてが現実に起こっていることなのだ。世界はまだ驚きに満ちている。 [レビュアー]東えりか(書評家・HONZ副代表) 千葉県生まれ。書評家。「小説すばる」「週刊新潮」「ミステリマガジン」「読売新聞」ほか各メディアで書評を担当。また、小説以外の優れた書籍を紹介するウェブサイト「HONZ」の副代表を務めている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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