「進次郎はまだ早い」の声の中、岸田首相を退陣させたのは"新NISA参入組"だった!?
旧統一教会との癒着、裏金問題、歴史的な円安に伴う物価高。7年半にも及ぶ安倍政治のツケを払わされ続けて不人気にあえいだ岸田文雄首相は、万策尽き果て、9月の自民党総裁選への不出馬を8月14日に表明して退陣の運びとなった。逆風続きだったもののお得意の鈍感力で続投の観測も強かった岸田首相が降板を決意した背景には、国民の怒りを買った新たな失態が浮かび上がる。 【写真】総裁選の有力候補 お盆休みの最中の突然の辞意表明に、各紙の政治部記者は大慌てとなった。全国紙政治部記者が振り返る。 「お盆は国会議員が地元に挨拶回りで戻るので、政治部の記者も総裁選前に休暇を取っていましたので、まさに寝耳に水の事態でした。岸田首相は6月の国会閉会の記者会見で、電気・ガス補助金の復活や、低所得世帯向けの給付金など総選挙に向けたバラマキ施策を発表し、続投に意欲をにじませていましたし、総裁選には出馬するものと想定していたので記者はもちろん、自民党の国会議員も驚天動地の騒ぎとなりました」 ■8月に入って浮上した「あの人」の名前 総裁選を巡っては、現職の岸田首相を軸に、過去に立候補経験がある石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安保担当相らが対抗馬として名前が挙がっていた。そのうえで、永田町では、自らの旧岸田派に加えて、麻生派、旧茂木派が不承不承担いで岸田首相が逃げ切るのではないかという見方が強かった。そうした中、8月に入ってある人物の名前が急浮上する。 「小泉進次郎氏です。いまも旧安倍派に発言力を残している森喜朗元首相が、手下の萩生田光一前政調会長らに小泉氏を担ぐように指示したとされます。これを、小泉氏の後ろ盾である菅義偉前首相が吹聴して、勝ち馬に乗りたい中堅・若手議員らが乗ってきて一挙に有力候補として躍り出ました。 菅氏は河野氏の支援も視野に入れていましたが、仇敵の麻生太郎元首相の傘の下から河野氏が離れないことにしびれを切らし、『進次郎でいく』と腹を固めました。小泉氏は昨秋に第二子が誕生したばかりで、父の純一郎氏も『50歳になるまでは総裁選に出さない』と出馬に否定的だったとされますが、同じ40代の小林鷹之前経済安全保障担当相の出馬が確定的となる中、"次世代のリーダー"の看板を奪われたくないことから出馬の意思を固めたとされます。 小泉氏が急浮上したことに岸田首相は意気消沈し、『決選投票に持ち込まれたら負けるかも』と考えて退陣を決意したとみられます」(政治部デスク) 国民人気が高く、刷新イメージを印象付けられて同僚議員のお眼鏡にもかなう強力ライバルの参戦に、不人気が止まらず「増税メガネ」とも揶揄(やゆ)される岸田首相が肝を冷やしたことは火を見るより明らか。しかし、自民党関係者は次のように反論する。 「清和会こと旧安倍派はそもそも瓦解状態で、若手は小林氏擁立に動いているので、一丸となって小泉氏を担ぐのは無理。また、若干43歳の小泉氏が総理・総裁になれば、世代交代が加速しかねないので50代以上の議員は面白くない。 また、唯一の派閥を残している麻生氏にとって、小泉氏の影にちらつく菅氏は不愉快極まりない存在。岸田首相に対しては、これまでなにかと嫌味を述べてきた麻生氏ですが、出馬していれば結局は躍起になって応援したはず。それでも、岸田首相が退陣を決めたのには別の理由があります」 ■NISA拡充が裏目に? それが、8月5日の驚異的な株安だという。 日経平均株価は4,451円安で、1987年10月20日のブラックマンデーの3,836円安を超える過去最大の下落幅を記録し、投資家を失意の底にたたきつけた。 「円安・物価高で国民が窮する中、岸田首相は株式投資こそが生活防衛の最善策だとして、今年1月から始まったNISA拡充の旗振り役を務め、株の購入を国民に促しました。株価はいったん回復したものの予断はできません。 岸田首相周辺は投資初心者を支持層に取り込み、株価の上昇を成果として掲げて、総裁選や次期総選挙でアピールする目論見でした。しかし、乱高下する相場に、不得手な新規の投資家からは動揺とともに『岸田に騙された』という不信感が募り始めています。延命に向けた戦略はご破算となり、岸田首相は切るカードがなくなってしまったのです」(前出・自民党関係者) 歴史的な株安は、株式市場に一縷(いちる)の望みをかけた一国の宰相の引導を渡したのかもしれない。 文/山本優希 写真/首相官邸ホームページ、小泉進次郎