島で唯一の保育園、開かずの6年 完成後も保育士応募はゼロ 沖縄・渡名喜島、移住促進策の厳しい現実
子どもたちでにぎわうはずの「預かり室」は扉が閉められ、手洗い場やロッカーが薄暗がりの中にぼんやりと浮かぶ。渡名喜島で唯一の保育園。2019年の開所以降、子どもが足を踏み入れたことは一度もない。 【写真】5児の母「だまされた」 同じ建物の老人福祉施設には、お年寄りが集まっていた。週3回のデイサービスの日。和気あいあいと響く声が、保育園の静けさを際立たせる。 ここは、渡名喜村が19年度に完成させた多目的活動拠点施設。老朽化した老人福祉センターを改築し、3歳未満の子を預けるスペースを新たに併設した。 それまで3歳以上が対象の幼稚園しかなく、0~2歳児は家庭で見るのが当たり前だった。集落が一つしかなく、島民は皆、顔見知り。何かあっても、親戚や隣近所に預ければ事足りた。 それが時代とともに人口が減少し、共働きの家庭が増えた。保育園を求める声が上がり、村は設置に乗り出した。 施設本体の改築や1階部分の整備で約8億5千万円。国の沖縄振興公共投資交付金(ハード交付金)を使った。 事業が始まった14年、島内にいた0~2歳児は 2~3人。それでも保育園ができれば、子育て世帯が移住してくる。そう見越して園の定員は19人とした。人口減少に直面する島で、待望の開園を迎えるはずだった。 「だまされた」。5人の子どもを育てる女性(38)は眉根を寄せて半笑いする。 渡名喜島出身。沖縄本島に住んでいたが、米国出身の夫が仕事で海外への異動を打診されたことをきっかけに、家族で14年にUターンした。 ちょうど村は、移住促進のための多用途住宅9棟を13年度に整備したばかりだった。そこに家賃月1万5千円で住める。さらに保育園の新設計画が背中を押した。 保育園が完成してから約6年。村は保育士資格のある人を募集しているが、応募は1件もない。いつまでたっても、「開かずの園」のままだ。 1歳だった息子は、この春に小学校を卒業する。「ハコモノを整備するだけでは人は来ない」 一律の補助メニューや資格を持った人の配置…。人口300人を下回る離島自治体に全国横並びの制度を当てはめるには無理が生じているのではないか。 島を歩けば、県や国が唱える離島振興は、実感をもたらさないまま住民の手をすり抜けているように映る。