アプリで避難所受付…できますか? 静岡県開発も浸透に課題 「訓練で使用」1団体どまり
静岡県が開発したスマートフォン向け防災アプリ「県防災」に搭載された、避難所の受付を電子化する機能「避難所支援システム受付」の普及が課題になっている。11月現在、同機能を活用する防災訓練を行ったことがある自主防災組織は、2023年に実施した見付地区地域づくり協議会(磐田市)のみ。同協議会に話を聞くと、自主防災組織の高齢化や通信環境の整備など、普及を阻むハードルが浮かび上がった。 同年の訓練には地区の住民約50人が参加。住民には事前に、アプリのダウンロードと避難予定先、最寄りの避難所、家族構成、体調報告など避難行動情報の登録を促した。当日は、指定避難所の磐田北小体育館入り口にパソコンと2次元バーコードを設置し、県がWi-Fi環境を整備した。住民がバーコードを読み込むと、避難者の電子台帳が作成される仕組みだ。同協議会の林浩巳会長(76)は「避難者の避難先を把握できるので不明者数が減るのでは」と期待する。 ただ多くの地域の場合、自主防災活動の中核を担うのは高齢者。アプリそのものが住民に浸透していないのが現状だ。インターネット環境を自宅に持たない高齢者も多い。アプリの機能を紹介する防災講座を訓練前に企画した同協議会防災部長の鈴木きよみさん(64)は「アプリのダウンロードに多くの時間を割いてしまい、機能紹介までたどり着けなかった。避難所に通信環境が整備されないと、活用は難しいのでは」と推察する。磐田市危機管理課の大庭勇太主査(44)は「災害情報共有システムや情報プラットフォームが、各市町や県とで統一されていないことも、アプリ普及の障壁になっているのでは」と指摘する。 県は同機能について「短時間かつ非接触で避難所の受付ができる」とするが、同協議会によると、2年前の訓練にかかった時間は紙とアプリで同じだった。事前講座に参加しなかった住民がその場でアプリを登録するなど、操作に時間がかかった。約15メートルの行列が屋外に連なり、時間短縮が課題に挙がったという。 同協議会は12月、2度目の訓練を行う。次回は「避難所を訪れた住民51人が30分以内に登録できれば合格」と目標を定めた。鈴木さんは「アプリには検索エンジンよりもローカルな情報が集まっているが、一般にはあまり知られていない。普段から事前学習で使っておくことや、訓練を繰り返すことが大切」と、アプリ活用の習慣化が普及の鍵になるとした。 林会長は将来的にアプリではなく、マイナンバーカードを活用した避難所受付の導入を提案する。「診察に必要な既往歴や薬などの情報提供ができれば、時短や救命につながる。国との連携に課題はありそうだが、保険証や運転免許証だけでなく災害にも役立てる方法を考えてほしい」と求めた。 ■通信環境整備へ県が交付金強化 避難所の通信環境整備について県は、35市町と5155の自主防災組織に配布した「避難所運営マニュアル」で、予備電源や発電装置、Wi-Fiなど情報収集手段の確保を市町に呼びかけている。また、地震・津波対策等減災交付金のうち、通信環境整備にかかる交付金については基本の交付率である3分の1から2分の1にかさ上げしている。 県の若林克茂危機情報課長は「避難所の環境整備においては、間仕切りや段ボールベッドはもちろんのこと、通信環境整備についても全力でバックアップしていきたい」と話した。 <メモ>アプリ「県防災」の避難所チェックイン機能は、避難指示が発令された際、誰でも利用できる。自主防災組織は、アプリのメインメニューにある「自主防災組織役員メニュー」から、自主防災組織に割り当てられたID、パスワードを入力すると、避難所の混雑状況や被害状況の画像を投稿できる。 県は被災者の避難状況把握や情報提供のため、避難行動情報の登録を推奨している。避難所利用者以外にも在宅避難や車中避難などを選択した人に対しても、登録者のスマホを通じて避難生活中の健康状態を確認し、食料の配布時間、罹災(りさい)証明書の発行などの情報を配信する。
静岡新聞社