ねぐせ。初の武道館ワンマン。そこで感じた宇宙一あったかい音楽を鳴らす彼らの想い
4人組バンドのねぐせ。が6月13日に日本武道館でワンマンライヴ〈ファンタジークライマックス〉を開催した。その日の模様をレポートする。
笑顔で音楽を鳴らすことで、ネガティヴな連鎖を断ち切りたい
「俺たちが宇宙で一番あったかいバンド、from新栄RAD SEVEN、名古屋から、ねぐせ。でした!」 2020年夏に結成された4人組バンド・ねぐせ。が、自身初の日本武道館ワンマンを開催した。結成から3年10ヵ月で武道館ワンマンを実現、チケットは追加販売された席も含めてソールドアウトとバンドの歩みは非常に速い。まずは名古屋から地道にライヴを重ねていこうとスタートしたものの、TikTokなどのSNSで楽曲が拡散されたことでバンドの認知は急速に広がった。観客が動画でおなじみのダンスをしながら盛り上がるライヴ中の光景も、2020年代ならではという印象。アンコールで放映されたバンドの歴史を辿るムービーはそれほど長くはなく、この先まだまだいろいろなシーンが待っているのだろうと想像が膨らんだ。 若きロックバンドである彼らにとって、ロックの殿堂・日本武道館とはどのような場所なのか。MCでは憧れのステージと言っていたし、緊張しているとも言っていたし、登場した時の表情も確かにちょっと固かった。しかしひとたび音を鳴らせば、〈楽しい〉がすべての感情に勝る。りょたち(ギター&ヴォーカル)が「イェー!」と歌声を響かせ、4人でジャーンと鳴らせば、どこであろうと音楽の遊び場になる。ステージ上のメンバーは笑顔で、客席からの声や手拍子をうれしそうに受け取りつつも、それ以前に、バンドで音を合わせること自体を喜んでいる様子だった。ファンへの愛と感謝を込めた「最愛」でライヴを締め括るつもりだったが、「これじゃ終われない」と急きょ「あの娘の胸に飛びこんで!」をやることにしたのも、そういう気持ちからだろう。 ホームのライヴハウス・新栄RAD SEVENと同じチェック柄の床のステージセットが象徴していたように、おそらく〈いつもの遊び場が今日は武道館というだけ〉〈夢中でバンドやっていたらいつのまにか武道館に来ていた〉という感覚だったのではないだろうか。だから〈ついにここまで辿り着いた〉的なウェットなテンションにはならない。ねぐせ。印のカラッと明るいサウンドは、武道館でもそのまま、そして今まででいちばん堂々と鳴っていた。りょたちのヴォーカルも堂々としていて、「恋と怪獣」や「ベイベイベイビー!」「日常革命」など唄い出しから観客の心を引きつけるシーンが目立つ。ねぐせ。は頻繁にツアーを廻っていて、ツアーがない時期にもフェスやイベントに出演している。3年10ヵ月間で最大限に重ねたライヴの経験が、4人に自信をもたらしたのだろう。特に曲間をドラムソロやインタールードで繋いだ中盤ブロックは、なおや(ギター)、しょうと(ベース)、なおと(ドラム)にとって緊張の連続だったはず。しかし変わらず笑顔で演奏し、バンド本来の持ち味を素直に発揮していたのが頼もしかった。 4人の持つ初々しくピュアなエネルギーが客席にも伝わり、笑顔の輪が広がっていく。春のツアーでファンと一緒に育てた「彩り」から始まり、「ベイベイベイビー!」「死なない為の音楽よ」「スーパー愛したい」と続いた箇所ではバンドと一緒に観客も唄い、サビだけではなく、ほぼ全編にわたりシンガロングが起きた。観客の声を少しでも近くで聴きたいのか、メンバーはステージサイドに向かって伸びる花道に頻繁に出ていっている。演奏中はドラムセットから離れられないなおとは、休符になる隙を見計らってダッシュしていた。 ところで、ねぐせ。の曲を聴いていると、〈すごい歌詞だな〉と思わされることがよくある。例えばこの日4曲目に披露された「めちゃくちゃ好きな人を愛すように世界を愛して!」は、大好きなアイドルに対する愛情を他の人にも、世界全体にも向けられないだろうかとポップに提案する曲で、タイトルになっているフレーズがサビで唄われる。人の善意を信じていなければ唄えない歌だ。7曲目の「独占愛」もすごい。〈人の携帯を見る〉という恋人同士であってもタブーとされる行為をしてしまった人の心情が1曲通して唄われているのだが、そのストーリーは〈君は悪くない〉〈そこまで寂しい思いをさせてしまった相手にも落ち度がある〉という目線から紡がれている。ねぐせ。の音楽は人のことを責めたり追い詰めたりしないのだ。 記事の冒頭に引用したのは、ライヴの最後のりょたちの言葉で、彼らのいつもの挨拶だ。スマホ越しに匿名の悪意に触れることも多いこの時代に、ねぐせ。が宇宙一あったかい音楽を鳴らしているのは、みんな完璧じゃないけど、きっといいところもあるはずだと願っているから。ブラックボックスである人の心、あるとしてもごくわずかかもしれない人の善意を信じるには勇気がいるが、まずは自分たちが笑顔で音楽を鳴らすことで、ネガティヴな連鎖を断ち切りたいという想いがあるのだろう。 この日武道館に響いたシンガロングと8750人の笑顔は希望だった。この温かい空気がもっと広がっていったらいいなと思う。 【SETLIST】 01 愛してみてよ減るもんじゃないし 02 タイムマシンにのって 03 めちゃくちゃ好きな人を愛すように世界を愛して! 04 あの娘の胸に飛びこんで! 05 秋の終 06 愛煙家 07 独占愛 08 スウェット 09 恋と怪獣 10 彩り 11 ベイベイベイビー! 12 死なない為の音楽よ 13 スーパー愛したい 14 あの娘の胸に飛びこんで! 15 恋夜 16 日常革命 17 ずっと好きだから 18 グッドな音楽を ENCORE 19 ダーリン 20 最愛 21 あの娘の胸に飛びこんで!
蜂須賀ちなみ