「孫の死は無駄じゃなかった」祖母は泣いた 友を奪った土石流から10年 「人の役に立ちたい」命と向き合い、同級生たちが歩む道
長野県南木曽町の土石流災害10年
長野県木曽郡南木曽町読書(よみかき)の梨子沢(なしざわ)の土石流災害は発生から10年を迎えた。犠牲になった同町南木曽中学校1年榑沼(くれぬま)海斗さん=当時(12)=の同級生には消防士や看護師、救急救命士の道を選んだ人も目立つ。「くれ君」「かい君」と親しまれた榑沼さんの命を奪った災害をそれぞれが受け止め、命の大切さと向き合う日々を生きている。 【写真】土石流災害後に護岸が整備された梨子沢
あの日降った「白い雨」
「あの日、『白い雨』が降っていたんです」。3日、岐阜県御嵩(みたけ)町の可茂(かも)消防事務組合南消防署御嵩分署。訓練を終えた消防士の原大貴さん(23)=岐阜県多治見市=が10年前を振り返った。
2014年7月9日、1年生は1泊2日の日程で愛知県へ臨海学習へ行き、学校へ戻ってきた。白い雨が降ると抜ける―。町に伝わる「蛇(じゃ)抜け」(土石流災害)の教訓を思わせる、白いもやがかかったような強烈な雨が学校や周辺を包んでいた。 帰り際の昇降口。同じクラスのくれ君が、ハグをしてきた。臨海学習で海水浴などを楽しみ、泊まる部屋も同じだった。「恥ずかしかったけれど、うれしかった」。今もはっきり覚えている。
さっきまで一緒にいたはずの「くれ君」が…
「大変なことになっている」。疲れて家で眠っていた原さんは夜、家族に起こされた。テレビに映っていたのは母校の南木曽小学校のそばを流れる土石流。その日のうちにくれ君の死が報じられた。「さっきまで一緒にいたのに…」。受け入れられず、部屋に閉じこもった。 テレビは、くれ君と遊んだ小学校周辺の変わり果てた様子を伝えていた。「どうして死んじゃったんだろう」。日常や思い出が奪われた気がした。その時、現場で活動する消防士が目に留まった。「非常時に活躍できる人になりたい。人の役に立ちたい」
かなえた消防士の夢
岐阜県の高校を卒業し、20年に夢をかなえた。「頑張るから応援してね」と、くれ君の仏壇に報告した。消防士になって、心臓が一時止まった20代男性の命を救ったことがある。消防士を志すきっかけをくれた「くれ君のおかげでもあるのかな」とも感じる。「災害が起きた時、最初に現場へ行くのは消防士。先手先手で機転を利かせて対応できる隊員になりたい」と願う。