ハードルが高い?高飛車?京都・花街「一見さんお断り」の本当の意味とは?
目には見えない「会員制」が最高のおもてなしを提供する
さらにリスクヘッジだけではなく、「おもてなし」の面からも「一見さんお断り」のシステムは機能しています。言い換えればお茶屋のシステムは実質的には「会員制」の仕組みとも言えます。ただ、会員制と言っても明確な規約やルールが存在しているわけではありません。言わば目に見えない「会員制」です。たとえ規約がないと言っても、そこを訪れる多くのお客さんが快適に過ごせるよう、花街における暗黙の約束事を理解し、良識のあるマナーをわきまえた人間でなければ、お茶屋に出入りすることはできません。 これはお金持ちかどうかということは関係ありません。高額な入会金や会費でもって顧客を選別する、いわゆる「富裕層」向けの会員制クラブ等がよくありますが、これらとは趣旨が全く異なります。現に私の知り合いで普通のサラリーマンでもお茶屋のなじみのお客になっている人はいます。いくらお金持ちでもマナーをわきまえない人は女将さんからやんわりと断わられることになるでしょう。 このように「一見さんお断り」は、お茶屋に遊びに来るお客が気持ちよく楽しく過ごせるように最高のおもてなしをするためには必要なシステムと言っていいでしょう。かつそのシステムを経済合理的に維持できるようにしている仕組みと言えるかもしれません。花街には音楽や舞踊だけではなく、美術や衣裳といった様々な文化が息づくところです。その文化をお茶屋という舞台で芸妓さんや舞妓さんというキャスト、そしてゲストが一体となって作ってきた歴史といえるのではないでしょうか。そういう意味では「花街」も間違いなく京文化の一つと言っていいでしょう。 【連載】おとなが楽しむ京都(経済コラムニスト・大江英樹)