人種問題に切り込んできたスパイク・リー監督が語る「アメリカ社会の現在地」…作品には「今も力がある」
あの映画で私はどん底を味わった
──マイケル・ジョーダン、オプラ・ウィンフリー、プリンスらが『マルコムX』の製作を支援した。資金調達をめぐるストーリーは、黒人コミュニティーの伝説だ。 ワーナー・ブラザースは3時間という上映時間に難色を示した。私の頭に銃を突き付けるようにして、「カットしろ。さもないと完成保証会社に映画を渡すぞ」と脅した。 そして自腹で100万ドルをつぎ込んだ映画を本当に私から奪い、(撮影中の映画を製作会社から引き取り完成させるか、お蔵入りにする権限を持つ)完成保証会社に渡した。 製作チームは全員解雇され、私は身動きが取れなくなった。 だが私はマルコムXの「弟子」だ。彼の自伝は中学生時代に読んだ。私にとってマルコムXの自伝以上に大切な本はなく、毎年読み返している。 そういうわけで、2つのことが何度も心に浮かんだ。自分を信じること、そして自分の道は自分で決めること。 やがてひらめいた。黒人の中にも資産家はいる。そこで彼らの連絡先を調べた。 製作費の支援は投資ではないから、カネを回収できるわけじゃない。要は寄付だ。それでも助けてくれそうな人をリストアップした。撮影後の作業を続けることができたのは、彼らの支援のおかげだ。 92年5月19日、マルコムXの誕生日に、私はハーレムのションバーグ黒人文化研究センターで記者会見を開き、支援者の名前を公表した。するとワーナーは再び製作費を出すようになった。 だが、あの映画で私はどん底を味わった。意志を貫いたせいでスタッフが解雇されたときは、本当につらかった。 でも、面白い話がある。ワーナーの2人の社長に初めてあの作品を見せたのは、ロサンゼルス暴動のさなかだった。ロスの街が燃えていたその日に、私たちは『マルコムX』の最初の編集版を見せたんだ。 4時間という長さだったが、2人とも最後まで見てくれた。後で2時間に縮めろと言ってきたが、従うつもりはなかった。『マルコムX』にはそうした紆余曲折がある。 ──今も人々は『ドゥ・ザ・ライト・シング』にインスピレーションをもらっている。 黒人文化を象徴する映画を作ってきたことを、私はとても誇りに思っている。黒人文化にこそ、私の魂、存在、アイデンティティーがある。 そして『ドゥ・ザ・ライト・シング』は特定のコミュニティーとそこでの出来事に焦点を当てた内容なのに、世界中で愛されている。 ──話は変わるが、大統領選を前にあなたは投票に行くよう呼びかけ、民主党全国大会にも出席した。積極的に投票を呼びかけるのはなぜ? まず、私のブラザー(バラク・オバマ元大統領)が精力的に各地を回っているのが本当にうれしい。彼は熱弁を振るい、シスターである副大統領(カマラ・ハリス候補)を全力で応援している。黒人男性に狙いを定め、ブラザーたちよ、ドナルド・トランプの口車に乗るなと訴えている。有権者登録をして選挙に行け、われらがシスターをホワイトハウスに送り込め、とね。 トランプが黒人のために何かいいことをしてくれたと誤解するのは、犯罪に手を染めるのと同じくらい危険だ。 笑い事じゃない。あの男が黒人のために何かしたことなど一度もない。あいつの父親はニューヨークにいくつもビルを建てたが、黒人には貸さなかった。だからトランプの口車に乗るな。ごまかしや隠蔽、卑劣な不正に引っかかってはいけない。
デビン・ロバートソン