「失敗は買ってでもしろ」を実現しました…起業率No.1「失敗大学」学長が振り返る郵政省に辞表を出した日
■iUは「失敗大学」である わがiUでは、「失敗から学ぶ大学」という点も強調しています。 日本は、失敗が許されにくい社会です。特に、社会人になってからの失敗は、立ち直りが難しい。「謝罪」という言葉がこれほど一般的な社会は、日本ぐらいではないか。 だからこそ、学生のうちに大きく失敗し、そこから学んでほしいと考えています。失敗から得られる経験は実に多く、社会に出た際、おおいに活かされるはずです。 この大学では、早い段階で起業することで、ほとんどの学生が一度は失敗します。でもそれが良いことなんです。失敗した経験があるからこそ、学生たちは強くなり、その経験が就職にさえも有利に働きます。 自らiUを「失敗大学」と名づけて喧伝していますが、学生たちからの拒否反応はありません。産業界からは好評で、「いいね!」のお墨付きをいただいています。ああ、いかに「失敗が大事」「失敗は買ってでもしろ」とみんなが思っていることか。特に、会社のCEOの方々からは、学生のうちに失敗を経験できることは素晴らしい、と賞賛を受けました。 来年度からは、面白法人カヤックの柳澤大輔社長が教授として、具体的な「失敗学」の教鞭をとってくれます。早稲田大学で博士号に挑戦しているいとうまい子さんも本学の教授になり、「どのように自分が這い上がってきたか」を学生に伝えたいと話してくれました。まさに、実録。これほど貴重な失敗学はないでしょう。 ■大失敗があるから今がある 「失敗に慣れることが大切」という阿川佐和子さんの言葉がありますが、まったくもって同感です。失敗を重ねることで立ち直りが早くなり、次の挑戦に進むことができるようになりますから。 起業すれば、お金の問題や人間関係のトラブルなど、次々に新たな課題が出てきます。そうした経験こそが実践的な学びであり、そこには失敗がつきものです。人生はそう簡単にいくものではない。それを早く知ることができるのです。 私自身、失敗の履歴書には事欠きません。 大学時代は音楽に夢中で、付け焼き刃で挑んだ就活には、すべて失敗しました。志望企業に拒否され続けたあの体験は、とても辛かった。でも、だからこそ、郵政省は自分に残された唯一の道だと思えました。 その後も郵政省で、大きな仕事で大きな失敗を重ねてきました。決定打は、NTTの再編が終わった後、NHK改革に取り組もうとしていた矢先に郵政省が解体されるという橋本行革での裁定でした。郵政省を総務省の一部にする政治決着となりましたが、自分なりの責任の取り方で辞表を出し、無職になりました。 ですが、あの大失敗がなかったら、私がMITに行くようなことは決して起こらなかったでしょう。 失敗があるから、今がある。失敗はむしろパスポートになる。新しい次元に行けるかどうかは、そのパスポートをどう受け取るかだと。受け取り、学ぶしかない。これほどの恩師はいない、と今なら断言できます。私もこの大学と共に失敗を重ねながら、学び続けているところです。 (構成=上阪徹) 【著者プロフィール】 中村 伊知哉(なかむら・いちや) iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長 1961年生まれ。京都大学経済学部卒、大阪大学博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。京都大学特任教授、東京大学研究員、デジタル政策財団理事長、CiP協議会理事長、国際公共経済学会会長、日本eスポーツ連合特別顧問、理化学研究所コーディネーターなどを兼務。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。MITメディアラボ客員教授、スタンフォード日本センター研究所長、慶應義塾大学教授を経て、2020年4月より現職。著書に『新版 超ヒマ社会をつくる――アフターコロナはネコの時代』((ヨシモトブックス)、『コンテンツと国家戦略』(角川EPUB選書)など多数。
中村 伊知哉