「失敗は買ってでもしろ」を実現しました…起業率No.1「失敗大学」学長が振り返る郵政省に辞表を出した日
■身近な社会課題を解決したい ただ、予想外だったのは、多くの学生が「大成功して有名になりたい」「大金持ちになりたい」という動機ではなく、「身近な社会問題を解決したい」という意識で起業していることです。大学が誕生したのはコロナ禍の最中で、「世の中には社会課題が山積している、それを解決したい」と願って入学した学生が多かったこともあります。 彼らはコロナ対策のアプリを独自で作ったり、高齢者とデジタル技術を結びつけたり、子ども向けのプログラミング学習を支援したり、出身地の「シャッター街」を再活性化しようとしたり。いわば、視線がダイレクトに社会に注がれていました。 社会課題を解決するため一人ひとりに向けた事業。そのような業態は、決して大きく稼げるわけではありません。ですが、構わない。ようするに、みんながサステナブルに生きていけるような活動をiUの学生たちは考えていたのです。 がつん、とやられました。いえ、ソフトな、がつんでしたが。 ひょっとすると、私よりも学生たちのほうが現代社会をしっかりと捉え、未来に向けて何をすべきかを考え、実践しようとしているのではないか。イノベーションの芽はここにあるよ、と柔らかく諭された心地でした。 ■日本のイノベーションの良さと強み 私は30代で郵政省を辞めた後、アメリカのMITで客員教授として赴任しました。1998年のことです。 当時はインターネットが急速に発展し始めた時期で、アメリカでは重要なイノベーションが大学から生まれているのを肌身で感じました。大学をプラットフォームにして、人材や資金、テクノロジーが集まり、新しい価値が次々に生まれていたのです。 翻って、日本はどうか。ウォークマン、ファミコン、初音ミクといった日本の名だたるプロダクトの誕生には、大学はほとんど関係していません。「産官学」の連携を考えたとき、日本は「学」の面に問題があるのではないか。先述の通り、こうして大学作りに携わったわけですが、やはり、日本には日本なりのイノベーション・ロードがあったわけです。 個から個へ。それが、日本のイノベーションの特徴であり、良さであり、強みである。 大学を作って、学生と直に接し、あらためてそれを感じた次第です。