武田砂鉄が政治家のスピーチ力を問う──「もうちょっと自分の言葉で喋ってよ」
アメリカの議会で上機嫌にスピーチした岸田文雄総理大臣。この様子を見て、ライターの武田砂鉄は違和感を覚えたという。なぜか? 【写真を見る】岸田首相、ちょっとはしゃぎ過ぎ?
政治家のスピーチが滑稽過ぎる
インタビューする仕事を続けていると、今、目の前で話し始めた内容が、真摯なものなのか、表層的なものなのか、ある程度は読み取れるようになる。スラスラ話しているからといって、気持ちがこもっているとは限らない。これまでの取材で答えてきた内容を繰り返しているだけかもしれない。無論、それはこちらの投げる質問が弱いからであって、このままでは相手の奥底に行き着かないまま終わってしまうと焦る。質問を重ねていくと、ようやく、相手が慎重に話し始める。戸惑いながら話し始めたとしても、それは、それを話すのが初めてだからかもしれない。心の中で「よしっ」と思う。 政治家のスピーチは、大抵が政治家自身で用意した言葉ではない。もはや周知の事実だ。答弁に困ると、後ろから忍者のように官僚が出てきて、なるべく存在を隠しながら、ここですと指差したり、紙の束を急いでめくって、このあたりですとサポートしたりする様子を見る。その後でマイクの前に立ち、「えー、ただいま、ご指摘いただいた点でございますが……」と言い始める。さっき、ここを読んだらいいと指示された箇所を読み上げる。ファミリーレストランにいる、出来上がったものを厨房から運んでくるロボットと、役割はそう変わらない。そこに載っているハンバーグを作ったのがロボットではないように、その答弁を作ったのは政治家ではないのだ。 ずっとそうでしょ。日本だけじゃないでしょ。そんなツッコミが想定される。確かにその通り。でも、やっぱり、改めて考えてみると、だいぶ滑稽じゃないかと思う。「えっと、2019年のデータと比較しますと……」の途中で2019年の正確なデータを引っ張り出してもらうのはいい。でも、「ここを読んでください」「はい、読みます」って、あまりに滑稽。自民党の裏金問題で結果的に出席者全員が自己保身に走ったのが政治倫理審査会。不十分な答弁が続いたが、そもそもあの場に出てくるのを渋っていた事実を忘れてはいけない。自分の言葉で答えなければならない環境が生まれるのをとにかく怖がっていた。嘘の証言をすれば偽証罪に問われる証人喚問なんて、とてもじゃないが耐えられないのだろう。政倫審にさえ登場せず、ブログやSNSで形だけの謝罪文を載せる議員も続出した。 誰かに用意してもらった言葉ばかりが飛び交っている。自分の言葉ではないので、なにかあるとすぐにパニックになる。2021年8月6日、広島で行われた平和記念式典で、当時の菅義偉首相が「日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない、核軍縮の進め方を巡っては各国の立場に隔たりがあります」と意味の通らない文言を読んだ。本来の文章は、「日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない世界の実現に力を尽くします……」と続くのだが、A4用紙を蛇腹状に四つ折りしたものの一部が糊づけされてしまっており(糊は付着していなかったとの指摘もある)、読み飛ばしてしまったのだ。