「紅麹」と醤油や酒の醸造用「麹」の決定的な違い そもそも「麹」とはどのようなものかを解説
■生物学的に異なる菌でも「麹」と呼ばれる背景 そもそも、私たち人間は、微生物学が発展する前から発酵食品を作ってきました。そのため、生物学的な定義の正確さより、それぞれの文化の中で慣習的に呼んでいた言葉が反映されていることも多くあります。 竹を食べることから、レッサーパンダの大きな新種だと思ってジャイアントパンダと名付けても、レッサーパンダはレッサーパンダ科で、ジャイアントパンダはクマ科だったりします(中国ではレッサーパンダが成長するとジャイアントパンダになると考えられていた地域があるそうです)。
微生物学的には別の種であっても、穀物にカビが生えて、それを食べたらおいしかったという体験が共通していれば、同じように麹と慣用的に呼んでしまうのは自然なことだと思います。 なお、アスペルギルス属をさらに細かく見ていくと、味噌、醤油、清酒などに幅広く用いられる「アスペルギルス オリゼー」と呼ばれる種、特に醤油に用いられる「アスペルギルス ソーヤ」、焼酎や泡盛に用いられる「アスペルギルス ルチエンシス」などがあります。また、日本の発酵食品には使われない「アスペルギルス フラバス」、「アスペルギルス ナイジャー」という種などもあります。
それでは、ここで、整理のために「麹菌」の定義の話をしましょう。まず、麹菌の示す範囲については広義に示すものと、狭義に示すものがあります。 広義的に麹菌の指し示す範囲として、「麹を作るための糸状菌(カビ)を総称して麹菌と呼ぶ」というものがあります。 ここには、日本の醸造食品に一般に使われる麹菌(アスペルギルス属の仲間)も、今回の紅麹(モナスカス属)も入ります。あるいは、中国の麹(曲)に使われるクモノスカビと呼ばれるカビなどが入る用例もあります。
■日本醸造学会が定めた「麴菌」はわずか 次に、狭く麹菌の語句の示す範囲の定義としては、日本醸造学会が麹菌を「国菌」(日本を代表するものとして選ばれた菌)と認定した際に定めた定義があります。 麴菌とは、わが国で醸造及び食品等に汎用されている次の菌をいう。 (1)和名を黄麴菌と称する Aspergillus oryzae 。 (2)黄麴菌(オリゼー群)に分類される Aspergillus sojae と黄麴菌の白色変異株。