大学の研究力とは? これからの学生に求められる力とは? 筑波大学長と早稲田大総長からのアドバイス
海外留学は、大きな価値がある
――田中総長は長く海外を見てきて、日本の大学はもっと変わるべきだと思われたということですが、やはり学生は留学をしたほうがいいでしょうか。 田中総長:早稲田大学は短期留学を含めて、コロナ前には8350人の海外留学生を受け入れ、4600人の学生を送り出していました。2032年までに学部生は全員、少なくとも半年、できれば1年、海外で学ばせたいと考えています。これは大きな費用がかかりますが、そのぐらいのことをやりたいです。2040年までには、基本的に教員は全員、日本語以外で研究発信と教育ができるようにしたいと考えています。現在、政治経済学部には108人の教員がいますが、すでにそのほぼ半数は海外でPh.D.(博士号)を取っています。 永田学長:留学経験者のプレゼンテーションを見に行くことがありますが、留学する前と後では、学生が全然違います。物の見方が変わっているのです。それは日常の中ではわからないことで、「非日常」に身をおかないと、体得できません。ただ、親御さんにとっては経済的な問題が大きいので、留学する人への支援を文科省に交渉している最中です。 ――これからの時代、学生はどういう力を身につけたらいいでしょうか。 永田学長:「決心」と「覚悟」を持つことですね。自分はこういう生き方をするんだと決めて、覚悟を持ってそこに向かうことです。決心と覚悟を持ったうえで、コミュニケーション力、英語力、専門力をつけるのが大事です。今の学生はそこがまだ弱いかなと思います。 昨年、筑波大学の開学50周年記念式典に、元福岡ソフトバンクホークス監督の工藤公康さん、ブライトンFC所属の三笘薫さんら卒業生を招きましたが、皆さんが「筑波大学に来たこと自体が人生のいちばんの冒険だった」と言っていました。冒険というのは、いろいろ準備はしても、これから何が起こるかはわかりません。自分のやりたいことのためには、決心と覚悟が必要です。 田中総長:答えのない問題を自分の頭で考える力をつけてほしいです。学生が社会に出て日々ぶつかる問題のほとんどに答えはありません。もう1つは、「しなやかな感性」です。自分と全く違う経験をしている人の感じ方や考え方をいかに理解するかということです。そのために必要なのは、日本の外に出ることです。外から日本を見ると人生が変わります。 それから、自分が面白いと思うことを追求してほしいです。出世するから、儲かるからではなく、やりがいがあって時間をかけてもいいと思うことをやっていれば必ず伸びるし、120パーセントの力が出ます。どんなニッチな領域でも、120パーセントでやっている人は絶対に光ります。「たくましい知性」と「しなやかな感性」を育んでもらいたいですね。 ――最後に高校生の保護者へ向けて、アドバイスをお願いします。 永田学長:厳しいことを言うようですが、子どもを突き落とす覚悟がないとダメですね。親が一生、子どもの面倒を見ることはできないので、どこかで手を離さないといけません。本当の意味で子どもから精神的に離れないとダメです。それは親自身が、自分の経験からわかると思います。 田中総長:限界を決めたら、そこまでしか伸びません。お子さんの上限を勝手に設定しないほうがいいと思います。なにかを押し付けたり、こういうものだと決めつけたりしないでほしい。子どもは興味があることに対しては、やる気になればどんどんやるので、可能性を閉じないようにして伸ばしてあげることが大事です。子どもがやりたいこと、関心のあることをどこまでも追求させてあげてください。 永田恭介(ながた・きょうすけ)/筑波大学学長。専門は分子生物学、ウイルス学、構造生物化学。東京大学薬学部卒、同大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。米国留学後、国立遺伝学研究所分子遺伝研究部門助手、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院生命理工学研究科助教授、筑波大学基礎医学系教授などを経て、2013年から現職。国立大学協会会長などを務める。 田中愛治(たなか・あいじ)/早稲田大学総長。専門は政治学。早稲田大学政治経済学部卒、米国オハイオ州立大学大学院政治学研究科博士課程修了。Ph.D.(政治学博士)。東洋英和女学院大学助教授、青山学院大学教授、早稲田大学政治経済学術院教授、International Political Science Association(世界政治学会)President(会長)などを経て、2018年から現職。日本私立大学連盟会長、日本私立大学団体連合会会長、全私学連合代表などを務める。 (文=仲宇佐ゆり、写真=今村拓馬)
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