【先回りしすぎて…】元気なうちのリフォームで「思わぬ失敗」 滑り止めで転倒、スロープが急勾配で登れない…工事が無駄になるケースも
老後もできる限り住み慣れた自宅で過ごしたい──そんな望みから、元気な50~60代のうちに介護に備えて自宅をリフォームする選択肢もある。だが、元気なうちに“予防的”に行うリフォームの場合、様々な介護の可能性を考慮して工事内容が増えがちだ。 【表】失敗しがちなリフォームの考え方2選
80代の男性Aさんは、15年ほど前に自宅をリフォームした際、ケアマネージャーやリフォーム業者と入念に打ち合わせたが、後悔もあるという。 「業者やケアマネさんは、介護が必要になった色々な先例を教えてくれて、『畳はフローリングにする』とか『浴槽は浅いものに替える』とか、様々なアドバイスをくれた。 そうした意見を受けて万全のリフォームをしたのですが、いざ私が80代になって車いす生活になると、不要なリフォームだったと感じる点が多くありました」 専門家のアドバイスによって過去のリフォーム事例から逆算すれば、自宅のなかでリフォームを施すと安心に見える箇所は多いかもしれないが、そのすべてが万人に必要とは限らない。高齢者住環境研究所代表の溝口恵二郎氏が説明する。 「元気なうちにリフォームをする場合は、まずは最小限、実際に必要な場所の改修にとどめましょう。例えば手すりは廊下の片側やトイレの壁だけに付ける、といった具合です。また、要介護認定を受けてからリフォームすれば介護保険サービスでリフォーム補助も出ます。焦ってあらゆるリフォームを行なうのではなく、必要に応じて施工しても遅くはない処置もあります」
滑り止めで転倒
溝口氏が指摘するように、先んじて万全なリフォームを行なおうとしすぎると、せっかくの工事が無駄になってしまう。転倒防止のために「床材」を替えたケースを溝口氏が説明する。 「つるつるしたフローリングは足腰が弱ったら滑りやすくなるだろうと、あらかじめザラザラした滑りにくい床材に替えたところ、逆に元気なうちに足が引っかかってしまい、つんのめって転倒してケガをした人がいました。滑りにくい素材で転びやすくなるケースは意外と多いので注意が必要です」 車いす生活を想定したリフォームも、無駄が生じやすいという。 「室内の扉は、手前や奥に開く『開き戸』よりも、横にスライドする『引き戸』のほうが車いす生活には便利です。ただ、引き戸の扉を収納するスペースが取れない部屋では、代わりにアコーディオンカーテンに変更するケースがあります。これもスペースが狭い場合、車いすの車輪に引っかかって通れなくなります。 玄関先の階段にスロープを取り付けて、いざ車いすになると急勾配すぎて自力で昇降できないケースも散見されます。そうした人は、せっかく取り付けたスロープを壊して、車いすを引き上げるリフトを設置することになる。リフトの設置場所をコンクリートで打ち直すには数十万円かかり、痛い出費になります」 ※週刊ポスト2024年10月4日号