「発明王エジソン」が惜しくも発明者の名前を逃していた「意外なもの」
電熱器と白熱電球は紙一重
白熱電球の開発はエジソンにぴったりだった。物理原則を発見するだけではなく、安価で長寿命のフィラメントに適した素材を発見する「実業家」としての能力が求められたからだ。 白熱電球の開発は熱との闘いでもあった。電気抵抗でフィラメントを光らせるアイディアは単純だが、エネルギーの大部分は熱(を含む可視光じゃない赤外線)になってしまって目的の光になる部分はごくわずかしかない。 しかも、白熱電球は密閉されていて、ランプやロウソクのように対流で、熱を外部に運んでもらうこともできないので、すぐに熱がたまってしまい、発光している部分の温度が上がりすぎて融けてしまう。 だいたい、電気抵抗で熱を作るというしくみ自体は、電熱器と同じなのだから、熱がたくさん発生するのは当たり前なのである。 エジソンは長時間融けないで発光し続ける素材を求めて試行錯誤を繰り返し、6000種類以上の素材を試して、最終的に日本の竹を炭化させて作ったフィラメントが1200時間以上もつことを発見したと言われている。1200時間、というと長そうだが、毎日3時間、夜間に点灯したとすると、400日しかもたない。1年ちょっとしかもたないから、それほど長寿命というわけではないだろう。 長らくランプの時代が続いた人類にとって、白熱電球は画期的な発明だったが、白熱電球だけ売っても商売にならなかった。当時は、家庭にはまだ電気が引かれていなかったからだ。 白熱電球を売って一儲けするためには、一般家庭に電気を供給しなくてはならなかった。実業家だったエジソンはみずから電力会社を設立して、白熱電球と発電(+給電)事業の両方で利益をあげようと考えた。そして、それは結果的にエジソンに悲劇をもたらすことになる(『学び直し高校物理』Chapter14で詳述)。
田口 善弘(中央大学理工学部教授)