「発明王エジソン」が惜しくも発明者の名前を逃していた「意外なもの」
オームの法則と白熱電球
エジソンが電球開発に熱を上げていた当時、すでに人類は電気を工学的に応用していた。電信はすでに商業サービスが始まっていたし、ベルの電話の特許も成立していた。だが、これらはみなあくまで通信の手段としてだった。電話の開発でベルに後れをとり、一敗地にまみれたエジソンがいままでの通信としての電気利用とは一線を画する、照明器具としての電球の開発に懸けた執念は相当のものだったろう。 電球の原理は簡単だ。有名なオームの法則を思い出してほしい。 中学理科でも習ったとおり、電気抵抗は、電流の流れにくさを表したもので、単位はオーム(Ω)である。超伝導体以外のすべての物質は、電流を流したときに熱が発生し、電気エネルギーの一部が失われる。 白熱電球で抵抗となるのがフィラメントだ。一定の電圧をかけると、電流が流れ、この際に熱が発生して、フィラメントを輝かせる。この際、どれくらいの熱が発生するのだろうか。 これは実は『学び直し高校物理』力学編で出てきた「エネルギー保存則」で説明される。電荷がある電圧の区間を移動した場合、失われるエネルギー(位置エネルギー)は以下の式で求められる。 ---------- 電荷の移動で失われるエネルギー=電荷×電圧 ---------- この式が成り立つ理由は以下のとおりである。正の電荷を電位差があるところに置くと、電位(※1)の高いほうから低いほうに向かって正の電荷は「押される」ことになる。この際にエネルギーが放出される。 なぜか。一般的に、正の電荷を電位が低いところから高いところに押し上げるには「仕事」をしないといけない。反対に、高いところから低いところに移動する場合は、この仕事の分のエネルギーが「放出されて失われる」ことになる。 電流とは単位時間当たりに移動する電荷の量だから、電流に時間をかけると電荷になるので、前述の式は、 ---------- 電荷の移動で失われるエネルギー=電流×時間×電圧 ---------- となる。ゆえに、ある時間に失われるエネルギー(ある時間内の発熱に相当)は、次の式で求められる。 ---------- 単位時間当たりに失われるエネルギー(発熱)=電流×電圧 ---------- 「単位時間当たりに失われるエネルギー」が大きいほど発熱は大きく電球は明るくなる。電流の単位はアンペア(A)で、電圧の単位はボルト(V)だが、電流×電圧の単位は何か。実はこれが電力を示すワット(W)なのである。店で電球を買うとき、ワット数が大きい電球ほど明るいのはこのためである。 ところで、皆さんの家の電力会社との契約はアンペア単位だと思うが、なぜ電力を示すワット単位にしないのか。実は、家庭で使われる電圧は100ボルト固定なので、電流を決めると、必然的にワットも確定する。私たちは、実際にはアンペア数×100の値に等しいワット数、つまりある時間に消費できるエネルギーの量を電力会社と契約しているのである。 我々は「電力」という言葉を何気なく使っているが、正確な意味を理解して使っている人は少ない。電力とは、電流×電圧で表される「単位時間当たりに使えるエネルギーの量」のことなのである。 * (※1)電位とは、電荷にかかわる位置エネルギーであり、静電ポテンシャルともいう。ある2点の間の電位の差は、電位差〈電圧〉という