『魔女の宅急便』作者・角野栄子、89歳でも現役 本格的なデビューは42歳だった「それまで心底好きだと思ったことなかった」
『魔女の宅急便』の作者として知られる児童文学作家・角野栄子。これまで260冊を超える作品を出版し、89歳になった今も現役で作家業を続けている。そんな彼女に4年間密着したドキュメンタリー映画『カラフルな魔女』が26日に全国公開された。本作ではお茶目でパワフルな姿がたっぷりと映し出されているが、35歳で作家デビューに至った経緯、それから40年以上経った今も作家活動を続ける原動力を聞いた。 【写真】89歳とは思えない…! お茶目&元気すぎる“現役”バリバリ作家の角野栄子
■89歳で現役作家のパワフルでチャーミングな生活に4年間密着 62年ぶりの再会も
角野は5歳で母を亡くし、戦争を経験。結婚後、24歳でブラジルに渡るなど、持ち前の冒険心と好奇心で幾多の苦難を乗り越えてきた。「想像力こそ、人間が持つ一番の魔法」と語る角野栄子とはどういう人物なのか?同作では、89歳のキュートな“魔女”が、老いや衰えさえも逆手にとり、今もなお、夢いっぱいな物語を生み出す秘訣とその生き様に迫る。 ――4年間に渡る密着撮影はいかがでしたか? 【角野栄子】私、密着って初めてでした。さすがに長くて、ちょっと疲れたね(笑)。日常生活の中でいろんな質問をされて、それを考えながらお答えしていくのは、そんなに簡単なことではなかったです。でも私、意外と平気なのね。図々しいのかしら(笑)。講演でもなんでも緊張したことはないの。自分をよく見せようと思わないで、そのままで喋っちゃう。それでいいと思ってるからね。 ――特に印象に残っているシーンは? 【角野栄子】海に行って、水に足を入れるところかな。裸足で気持ち良かったし、脚が綺麗だって言われたの(笑)。それが一番印象的でした。私、海大好きだから。 ――角野さんのデビュー作でも描かれている、ブラジルで出会った少年・ルイジンニョさんとの再会シーンも感動的でした。 【角野栄子】あそこは、映画に入れないでって言ったの。自分が泣いてるのって恥ずかしいから。でもちゃんと使われていましたね。
■35歳で作家デビュー「生まれて初めて、心底好きだと思えることに出会えた」
――角野さんは、35歳で作家デビューされたんですよね。 【角野栄子】早稲田大学時代の恩師から声をかけられたのがきっかけなのですけど、最初はお断りしました。書いたことなかったですし。でも強く勧められて、何度も書き直しているうちに、「私はこれが好きだ」って思ったの。私は生まれてから心底好きだと思ったことがなくて、そんな風に思えたのは初めてでした。これは一生やっていこうと思いました。 ――それから作家を目指されたのでしょうか? 【角野栄子】いいえ、それから7年間は自分一人で書いていました。誰にも見せないで。見せて何か言われるのは嫌だから(笑)。誰にも見せないと思ったら何でもできるのよ、人って。絵でも何でも、人に見せようと思うと堅くなっちゃうけど、人に見せなければ何でもできる。自由なのよ。私は自由でなければ何も生まれないと思っているから。 ――それで、2作目の『ビルにきえたきつね』まで7年間空いているんですね。 【角野栄子】そうね。私は書くことを勉強してないから、自分の中にいろいろ雑念が入ってくるの。友情とはこういうものだとか、ここはこうじゃないといけないっていう。でもそうじゃなく、自由に書いていいんだと思えるまでに7年かかったんですね。 ――そうして本格的に作家になられたのは42歳の時。それまで自分のやりたいことに出会えない焦りはありましたか? 【角野栄子】まだ子どもが小さかったので、勤めには出られない。夫は仕事で忙しかったから、家で娘と2人っきりですよね。家にいる時間、大人の会話はないわけです。その時、何か自分が生き生きとできるものがあったらいいなと思ってました。そこにぶつかったのが“書く”ってことです。何もなかったところに飴が与えられて、それが美味しかったって感じね。