『ラップスタア』の在り方はどう変化した? Kaneee、Watson……“王冠が無い王”の活躍から考える
Watson
徳島県小松島市出身の2000年2月22日生まれ。2021年にリリースされてバイラルヒットした「18K」や、2022年5月にYouTubeチャンネル『03- Performance』にて公開された「reoccurring dream」の2曲で自身の現状を変えると同時に、国内ラップシーンにおける2020年代最初のゲームチェンジャーとなった注目ラッパーである。 KOHH(現:千葉雄喜)やT-Pablowのようにストリートに根差したラップをしたり、「reoccurring dream」の〈だいきが嫉妬するはずだが〉など、ZORNのように地元の友人の名前をリリックに込めたりと、彼のスタイルを語る切り口は様々。それでも特筆すべきはやはり、物事を対比させながらユーモアを交え、上手いことを言ってくすりと笑わせる表現技法だろう。「reoccurring dream」でいえば、〈四六時中ずっと触ってるちんちんでもやな事触れない〉のような部分。その影響力は、『ラップスタア 2024』で審査員から「Watson以降のラップ」として括られたほど、彼のスタイルを模倣したラッパーが多く見られたほどだ。 とはいえ、Watsonにも『ラップスタア』で王冠を逃した過去が。しかも、応募した『ラップスタア誕生 2021』では、動画審査の段階で予選落ちするなど、まったく陽の目を見ない結果だった。当時こそ、緩めのフロウで現在のスピットスタイルと異なっていたり、前述の“Watson以降のラップ”も見られなかったためやや致し方ないのだが、来る6月29日には千葉・幕張メッセにて開催される番組主催フェス『STARZ』への出演が決定している。Watsonの存在は『ラップスタア』が見つけきれなかった原石ながらも、前述の影響力を踏まえるに、今回ばかりはブッキングせざるを得なかったのだろうと勝手ながらに想像している。 そのほか、Watsonの魅力は、活動におけるハードワークぶりにもある。2023年中盤までは毎週のように新曲や客演曲が発表されていたことに加えて、現在開催中の全国ツアーもフライヤーを見てもらえれば一目瞭然だが、軽く引くようなスケジュールが並んでいる。北海道の翌週に鹿児島を訪れるなど、7月末までの数カ月間、冗談抜きで全国を飛び回っているのだ。本当によく稼働するラッパーであり、代表曲のひとつ「24/7」で歌われる〈俺をみたら時間ないと言い訳では使えないよ〉のラインは、まさしくとしか言えない。