梅垣義明 「美輪明宏さんみたいなすごい方は出てこない」
その時も、唯一楽屋に来てアドバイスをくれたのが喰始だったんですけど「お前、面白いことをやってるんだから、堂々とやりなさい。美輪明宏さんが好きなら、美輪さんみたいに堂々とやりなさい」と言ってくれたんです。そして、次の日の公演、驚きました。なんと、客席に美輪さんがいらしてたんです。 詳しく説明すると、この1万円ライブの少し前に雑誌の企画で美輪さんと対談させてもらったんです。その流れでライブを見に来てくださったんですけど、そんな初日があって、よりによって2日目に来られるとは、こちらは全く把握していなくて。「もう死にたい」とまで思った翌日に来てくださるなんて…と。 幸い、2日目のステージは何とかうまくいって、終演後に美輪さんから楽屋で「面白かった」と言ってもらえました。 まさかのシチュエーションで胸に沸き起こった、何とも言えない感情。いまだにしっかりと残っています。楽屋のカビ臭いニオイ、裸電球のあかり、明確に覚えています。僕にとって、2日目の公演は確実にターニングポイントになりました。こんなことがあるんだと。
今もそうですけど、実際に美輪さんの舞台を観に行って思うのは、あの人は舞台に出てきた瞬間に男も女もなくなる。そこには美輪明宏がいるだけ。あの感覚がすごいなと。あの裏には、美輪さんの人生があるんだと痛感します。マイノリティーとして戦ってきた。 今ほど、ゲイとかそういう概念がオープンになっていない時に、時代に向かって立ってきた。その“文脈”があの人の立ち方には出てるんですよね。今の時代、もうあんな人は出てこないと思います。 そんな中、これもありがたいとしか言いようがないですけど、お声がけいただいて、ここ何年かは美輪さんの舞台「毛皮のマリー」(作・寺山修司)にも出演させてもらうことになりました。 これがね、恩人とは思っているけど、それと一緒にやりたいということとは違う(笑)。確かに、うれしい。ありがたい。でも、怖いんです。恩人と思っているほど大きな存在の人と一緒にやるというのは、すごくプレッシャーがかかることでもありますし。 実際に、舞台では侍従役で美輪さんのワキの下を剃るんですよ…。まじまじとワキの下を間近で見ながら、見てはいけないものを見ている気もしてました。 さらに、楽屋ではコンビニの袋からおにぎりを出して食べてらっしゃる。その姿も、見ていいんだろうかと思う。近づいたことで、新たにいろいろな面も見せてもらいましたが、それでも、やっぱり、こんなすごい方は出てこないという思いに変わりはありませんでした。