【秋華賞回顧】過酷な流れに動じぬ精神力、操縦性際立ったチェルヴィニア ルメール騎手の完璧なレース運びもカギに
完璧だったレース運び
それにしても、牝馬同士とは思えない過酷な流れになった。GⅠにふさわしい底力勝負はみていて力が入る。演出したのはセキトバイースト。ローズSではマイペースの大逃げで3着に入り出走権を手にしたが、今回はそれを超える意を決した逃げだった。序盤600m34.5は目立って速くはないが、600m標識通過後から11.3-11.3-11.7-11.6と速かった。息を入れたい中盤が速ければ、ついてくる馬はいない。前はバラバラ、後ろに大集団ができる隊列によもやと思わせた。 だが、ここから12.2-12.7。さすがにセキトバイーストも苦しく、追いかける先行勢にも辛かった。追う後方の大集団も当然、内回りを意識し、早めに動かざるを得ず、最後は底力勝負に。確固たる実力がなければ、直線で脚を残せなかった。勢いよく内を伸びたミアネーロも最後は止まった。ラスト200m11.8を耐えられる持久力と我慢強さが試された。チェルヴィニアを含め、最後まで伸びたボンドガール、ステレンボッシュは世代最上位クラス。古馬と戦える手ごたえを得た。 チェルヴィニアとこの2頭との差は位置取りや進路なども大きい。いつでもどこからでも動けるポジション運びはさすがルメール騎手。ゴールまで完璧なレースであり、それを実行できるチェルヴィニアの操縦性も評価ポイントだろう。前後半1000m57.1-1:00.0のタテ長隊列という動きにくいレースだからこそ、チェルヴィニアのレース巧者ぶりも際立った。むしろ東京や新潟より締まった流れになる内回りの方が良いようにさえ思える。
適条件で狙いたい伏兵陣
2着ボンドガールは折り合いと距離を念頭に今回も待機策。直線は外からよく伸びた。流れも向いたが、この形で勝ち切るには直線が短すぎたか。近走は中距離挑戦のため、追い込みに徹してきたが、マイルあたりならもう少し攻めた競馬ができるはず。母コーステッドはダノンベルーガ、コスタレイと中距離型が目立つものの、そこはやはり父ダイワメジャー。マイル前後がベストだろう。淀みない流れでみせた末脚はマイラー資質の高さの裏返しではないか。適距離に戻った今後が楽しみだ。 3着ステレンボッシュはチェルヴィニアの背後、外目にポジションをとりながら、3~4コーナーで前を行くチェルヴィニアにベストポジションをとられてしまった。さらに、外に出そうにもコガネノソラなどがいて、スペースがなく、やむなく内へ切り返して追い込んだ。内回りでこの進路変更は痛く、伸び脚が目立っていただけにもったいなかった。 3番人気クイーンズウォークはゲートでチャカつき出遅れ。さらに緩まない中盤で上がっていくなど、乱れたリズムを取り戻せなかった。今後、ゲートに課題はあるものの、今回は力を出していない。また、好位から粘って4、5着だったラヴァンダ、クリスマスパレードは流れを考えれば大健闘。決して内回りで恵まれた好走とはいえない。広いコース向きのラヴァンダ、中山が得意なクリスマスパレード。どちらも適条件なら狙いたい。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
勝木 淳