日銀総裁の任期満了まで残り約1年 黒田スマイルは何を意味するのか?
本田悦朗氏、中曽現日銀副総裁も有力候補
次に本田氏の就任確率を引き下げたのは、現時点で追加緩和の必要性が大幅に低下していることを踏まえたからです。本田氏は安倍首相のブレーンという立場で、大胆な金融緩和の必要性を主張してきたほか、消費増税に反対した経緯があるなど景気刺激策の導入に極めて前向きな姿勢が知られていますが、日本経済は昨年秋口頃からの景気回復によって、更なる景気刺激策の必要性に乏しい状態になっています。また、「金融緩和の限界」という表現が流行ることからも明らかなとおり、日銀が採れる政策手段が減ってきている現状も重要でしょう。もちろん、本田氏の有する官邸からの厚い信頼は魅力的なのですが、この点は本田総裁の誕生シナリオに疑問を投げかけています。 他方、中曽副総裁を追加したのは、黒田体制で導入した枠組みを元に戻すにあたって、最もスムーズな出口戦略の実行が期待できるためです。日銀出身のため、金融実務に精通していることの真価が発揮されそうです。実際、産経新聞がエコノミストを対象としたアンケート(筆者を含む18名)でも中曽副総裁の総裁抜擢を予想する向きが多く、その調査では黒田総裁に次ぐ票を獲得していました。上述したとおり、追加緩和の必要性が明らかに後退している現状に鑑みると、出口戦略を担う新総裁として白羽の矢が立ちやすいいでしょう。 また、日銀出身者と財務省出身者が交互に総裁を担う「たすきがけ人事」の観点からも有力視されます。なお、このたすきがけ人事は日銀出身の速水総裁・福井総裁・白川総裁が連続して総裁に就任したことで崩れたように思えますが、財務省出身の黒田総裁が就任したことで、再びその慣習が復活する可能性があります。 以上を踏まえると、現時点において次期総裁候補として有力視すべきは黒田現日銀総裁、本田悦朗氏、中曽現日銀副総裁の3名であると考えられます。なお、雨宮氏、伊藤氏については現時点では総裁就任確率が低いと判断していますが、今後の展開次第では一気に有力候補に躍り出る可能性もありますので、この5名の名前は総裁候補として覚えておくと良いでしょう。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。