奇想天外でエネルギッシュ! 舞台『劇走江戸鴉~チャリンコ傾奇組~』ゲネプロレポート。井上瑞稀、橋本涼コメントも到着
HiHi Jetsの井上瑞稀、橋本涼がダブル主演を務める舞台『劇走江戸鴉(げきそうえどがらす)~チャリンコ傾奇組(かぶきぐみ)~』が、10月5日、東京・新橋演舞場にて開幕した。“チャリンコ”で町を暴走する若者たちが繰り広げる、奇想天外でエネルギッシュな青春活劇。2013年に大阪・新歌舞伎座で上演された『元禄チャリンコ無頼衆 浪花阿呆鴉』を、脚本・演出を手掛けた横内謙介がブラッシュアップした作品だ。開幕当日に行われたゲネプロでは、個性豊かな俳優陣とド派手な“デコチャリ”がところ狭しと大活躍、若きパワーが弾ける、見どころたっぷりの舞台を印象づけた。 【全ての写真】HiHi Jetsの井上瑞稀、橋本涼がダブル主演を務める舞台『劇走江戸鴉~チャリンコ傾奇組~』 火事と喧嘩は江戸の花──幕開けに登場するのは、血気盛んな火消したち。喧嘩の相手を待つ彼らの前に、喧嘩代行を生業とする江戸鴉の4人が現れる。暴走族の疾走を思わせる爆音とともに舞台にせり上がってきた彼らが操っているのは、七色の電飾輝く“デコチャリ”だ。金糸銀糸はもちろん、光る素材にファーまであしらった毒々しくも美しい衣裳で、一人ひとり名乗りをあげる。 橋本演じるリーダーの雁金弾七(つりがねだんしち)。ヤンキーの総長らしい近寄りがたいオーラをまといつつ、持ち前の容姿と爽やかさで場をリードしてゆく。親衛隊長・雷鳴庄九郎(かみなりしょうくろう)を演じるのは、浜中文一。サイドを編み込んだリーゼントでふてぶてしく凄む姿はまさに、ならず者たちの頼れる兄貴分だ。屈強で強面、殺陣で見せる威圧感は圧倒的だが、時折見せるニヒルな笑みに、ちょっと仄暗い雰囲気も魅力だ。富本惣昭演じる特攻隊長・庵平兵衛(あんのへいべえ)は、病を患う線の細い青年。限られた生の中で懸命に輝こうとする姿が胸に響く。発明小僧の黒鉄仟右衛門(くろがねせんえもん)はチャリンコを生み出した職人気質なキャラクター、茶目っ気たっぷりに演じる押田岳の姿が印象的。皆それぞれの事情を抱え、道を外した若者たちだ。江戸時代にあるわけがないデコチャリの迫力と、風にたなびく鴉の族旗。いかめしい空気の中、“ママチャリ”のベルの音をここぞとばかりに響かせるユーモアも忘れない。客席は一気に、ヤンキー漫画的要素が散りばめられた荒唐無稽な江戸の世界へと引き込まれていく。 そこに登場するのが、江戸の浄化作戦の任にあたる同心、山本亨演じる小田切直雪(おだぎりなおゆき)とその手下、井上瑞稀演じる布袋数右衛門(ほていかずえもん)。数右衛門は元武家の出で、しかも元ヤン、厳しい人生を生き抜いてきた強さ、悲しさが滲み出る。お家再興を夢見て難しい任務にも真摯に向き合う彼は、やがて弾七との一騎打ちへ──。大きく輝く満月の下で展開される井上と橋本の手合わせは、息の合った演技で迫力倍増、独特の美しさをたたえるシーンに。ふたりの斬り合いに割って入ったのは、数右衛門の姉、お露(つゆ)。清楚な町娘の出立ちの武田玲奈が、ヒロイン然として美しい。が、どうやら彼女と弾七には、人知れぬ“過去”があるようだ。 その後、これまでの行いを改め、同心の手先として活躍し、一躍町のヒーローとなった江戸鴉。その運命のカギを握るのは、奉行、朝山伊右衛門之丞(あさやまいえもんのじょう)だ。意に沿わぬ単身赴任で江戸に来たとぼやく山口馬木也の演技が味わい深い。ある日、オレノグラフィティ演じる吉岡慶二郎(よしおかけいじろう)から、江戸一のヤクザである野田藤一家の殲滅作戦という危険な任務を命じられる江戸鴉。そこに数右衛門が加わると、井上、橋本のリードで舞台はさらにパワー全開、より輝きを増していく。策略、裏切りがはびこる中、正義のために悪に立ち向かい、“太く短く生きたい”と臆せず前に進む彼らの運命は──!? 元禄期の大坂に実在し、町を荒らし回って獄門に処せられたという雁金五人男をモデルに、江戸の町で必死に生きるならず者たちの姿を描き出す本作。花道を疾走、宙乗りまで見せるデコチャリの迫力、臨場感は前評判以上、もちろん、アクロバティックで激しい立ち廻り、ダンスに笑いのエッセンスも満載だ。主宰する劇団扉座のみならず、脚本を手がけた『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』などで多くの観客を魅了した横内ならではの、ユニークでパワフル、ついほろりとさせられる舞台。新橋演舞場ののち、大阪・松竹座へと続くロングラン公演に、注目が集まる。 取材・文:加藤智子