声優しながらバイトを掛け持ちする40代男性「居酒屋で25年働いて時給1200円」「睡眠は毎日5時間未満」
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。 【写真】全国のパートや派遣労働者たち約3万人とともに「非正規春闘」に参加、「一律10%以上の賃上げ」を求めた ■毎月の労働時間は合計で240時間 声優をしながらアルバイトを掛け持ちしているトモヤスさん(仮名、44歳)の1日は長い。 朝はIT関連の会社に出勤するため8時半に起床。6時間の勤務を終えた後、発声の講師や自身のレッスンの予定を入れる。夜は都心の居酒屋で閉店までホールに立つ。帰宅して眠りに就くのは空が白み始める午前4時ごろだ。このほかに収録や役を得るためのオーディションが入れば、“昼職”のほうのシフトを調整して臨む。
「分刻みのスケジュールです」とトモヤスさんは苦笑いする。睡眠時間は5時間も取れない。毎月の労働時間は合計で240時間を超えることもある。法律が定める労働時間の上限目安は月160時間なので、過労死ラインとされる月80時間の残業が常態化しているに等しい。 高校時代、演劇部に所属しながら声優の養成学校に通った。今ならパワハラと糾弾されそうな指導も当時は当たり前。講師の声優たちから罵声や灰皿を投げつけられながら、芝居やダンス、筋トレに明け暮れた日々は理不尽で過酷だったが、充実もしていたという。
「声優を志したときの熱い思いは、もう忘れちゃいました。でも、台本を通していろんな人生を生きることができる。この道を選んだことを後悔はしていません」 しかし、努力が実を結ぶとは限らないのが芸能の世界だ。周囲からは「30歳までに売れればいい」と言われたものだが、トモヤスさんは今も声優業だけでは食べていけない。レギュラーやゲーム収録などの仕事があれば別だが、ギャラがゼロの月もある。 アルバイトによる収入は手取りで月30万円ほど。労働時間を考えると低すぎる水準だし、家賃に約10万円がかかるが、声優との両立は可能にもみえる。しかし、実際にはオーバーワークせざるを得ない“業界の闇”があるという。