『ライオン・キング:ムファサ』が前作を超えてより感情移入できる作品に仕上がったワケ
『ライオン・キング:ムファサ』が公開された。 王の血筋を引くタカ(若き日のスカー)と、後に『ライオン・キング』の主人公シンバの父となるムファサの若き日の物語である。 【画像】『ライオン・キング:ムファサ』の劇中写真をすべて見る
「子ども」と「動物」で起死回生を狙ったか?
近年のディズニー映画は、かつての勢いを失っているようにみえる。 ちょうど1年前の今頃に公開されたディズニー100周年記念作品『ウィッシュ(WISH)』は、日本ではそれなりに好調だったが、北米では興行収入がまったくふるわなかった。 2009年にディズニー傘下に加えたマーベル作品でも不振に苦しんでいる。 “視聴率に困ったら、子どもと動物を出せばいい” 昔、テレビギョーカイのエラい人が、そんなことを言っていたのを、思い出す。 本当に「子ども」や「動物」の登場が視聴率を左右するかどうかはわからないが、言われてみれば、子ども(あるいは動物)で視聴率を稼いでいるな、と思える番組は確かにある。 そういう見方をするならば、クリスマス前の冬休み公開である本作は、「動物」しかも「子ども」時代を描くことで、起死回生を狙う意図があるのではないかと、疑いたくなってしまう。 しかし、ディズニーの『ライオン・キング』は、親から子へ命の絆(サークル・オブ・ライフ)を受け継いでいく壮大な物語である。ディズニーが“キング・オブ・エンターテイメント”と評するだけあって、愛と友情、裏切りと信頼など、日本人にとって親が子に伝えたいことが「これでもか」とばかりに詰まっている。つまり、そもそもが「親が子どもに見せたい良質なコンテンツ」なので、別に意図など狙わなくとも、存在自体が冬休みの目玉企画となる王者作品なのだ。
「ディズニー・アニメーションの頂点」と評された名作の前日譚
私が『ライオン・キング』をはじめて観たのは、アニメーションでも映画でもなく、劇団四季の舞台『ライオンキング』だった。 パペットを持った俳優や、動物のマスクを頭上に載せた俳優たちが現れたときは一瞬ぎょっとしたが、テーマ曲「サークル・オブ・ライフ」をはじめ魂を揺さぶる数々の楽曲と“サバンナ”を感じさせる熱気に、すぐに夢中になった。以来、数え切れないくらい劇場へ足を運んでいる。 この劇団四季の舞台『ライオンキング』は、1年前の2023年に、日本での初上演からちょうど25周年を迎えたという。25年間ほぼ毎日(日によっては昼夜2回)上演し続けているのに、いまだに連日チケット完売の勢いで集客できているのは、舞台・演技の素晴らしさはもちろん、演目自体の魅力が高いというのが大きいといえる。 ディズニー映画『ライオン・キング』シリーズのはじまりは、1994年に公開されたアニメーション版『ライオン・キング』である。 第67回アカデミー賞®作曲賞、主題歌賞にも輝いた心に響く音楽と、家族や生命への限りない愛を描いた感動のストーリーは、ディズニーが「ディズニー・アニメーションの頂点」と評するもので、時を経てもまったく色あせることがない。 続篇が3まで製作されたあと、2019年には「超実写版」と謳う、フルCGの実写版『ライオン・キング』が公開されており、本作はその実写版の前日譚となる。 『ムーンライト』(16年)でアカデミー賞®作品賞、脚色賞などを受賞したバリー・ジェンキンスが監督を、『アバター』(09年)などに参加し、『アバター4』(25年公開予定)でも製作総指揮を務めるピーター・M・トビヤンセンが製作総指揮を務めている。 声優陣も豪華すぎる顔ぶれだ。主演のムファサとタカには未来のハリウッドを担う若手俳優をキャスティング。冷酷な敵ライオン・キロスを北欧の至宝・マッツ・ミケルセンが演じるほか、世界の歌姫ビヨンセ・ノウルズ=カーターがシンバの幼なじみで後の妻となるナラを、そのビヨンセとJAY-Z(ショーン・コーリー・カーター)の娘、ブルー・アイビー・カーターがシンバの娘キアラを演じている。 日本では「親子連れ」をメインターゲットに据えているせいか、超実写プレミアム吹替版の公開が目立つが、日本の吹替声優陣も「プレミアム」と呼ぶべき豪華さだ。ディズニー映画では、演技力は当然として歌唱力も最高レベル(かつ、「ディズニーテイスト」にふさわしいもの)が求められるが、歌舞伎界のエース・尾上右近がムファサを、日本が世界に誇る名優・渡辺謙がその宿敵・キロスを演じるなど、本作の質の高さがそのまま、いや、それ以上に展開されているといえる。