余裕があった頃の施しがアダに!大藪春彦賞作家が浅草寺の喫煙所で女性ホームレスのつきまといから逃げ続ける「納得の理由」【「鶯谷」第二十話#1】
ホームレスからの黙礼
その日も午前5時前に出勤した。 4月になって外はだいぶん明るくなり、亀戸駅に到着する頃には東の空が茜色に染まり、始発電車の時間には朝陽が顔を出している季節になった。 【写真】大胆な水着姿に全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる! 亀戸駅前公園の喫煙所で一服するのが私の朝の習慣だ。 亀戸駅から浅草までは、もちろん禁煙なのでここでニコチンを補充しておかねばならない。 半分吸って、残り半分は仕事場に到着してから執筆を始める前に吸う。 その時間の駅前公園喫煙所には2、3人の男女が紫煙を燻らせている。 加熱式煙草の利用者は、喫煙所の外で吸う。 中で吸うように定められているのだが、喫煙所には十分は広さがなく、コロナ禍の名残か、人数制限もされている。 そんな中、黒い塊の男性が喫煙所に現れた。 以前私が、ホームレスと気付かずベンチに丸まっていた男性だ。 彼が私に挨拶した。 挨拶といっても、声をかけられたわけではなく、黙礼したのであるが、明らかにそれは私に対して行われたものであった。 (どうして私だけに……) 訝った。 (同類と認められているのか? )
女性ホームレスへの施し
彼が喫煙所で探しているものはシケモクであろう。 以前の私であれば煙草の一本も差し出したであろうが、今では私自身がシケモクを吸う人間なのだ。 どうして、そんな私が煙草を恵んでやれるというのだ。 そもそも、ホームレスに自分が同一視され、仲間であるかように挨拶されるのが気に入らない。 以前浅草寺に毎朝通っていた時のことが思い出された。 浅草寺のベンチで腰休めをする私を待っている女性ホームレスがいた。 女性の(特にホームレスの)年齢を推測することは難しいが、控えめにいってもオバサンであった。 彼女はかなりの数の100円ライターを持っていた。 どれも喫煙所で拾ったものだという。 亀戸のホームレスも同じだったのかもしれない。 当時はまだ金銭的に余裕があった私は、ポケットに残っていたセブンスターを箱ごと差し出し、そればかりか、缶コーヒーを奢り、さらには1,000円札まで与えたりしていた。 それに味をしめたのか、オバサンは毎朝のように私を待ち受けるようになったのだ。
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