虫混入デマにチロルチョコが“神対応” 「原因不明でもまず動くべき」3つの理由を危機管理プロが説く
とにかく素早く行動することが肝要
「最近は、定期的に自社の商品名や社名で“エゴサ”し、SNS上の炎上などに素早く対応できる体制を整える企業が増えてきています。なぜかというと、危機管理はとにかく早くアクションを起こすことが重要だからです」 そう話すのは、株式会社リスク・ヘッジ取締役の田中辰巳氏だ。 「異物混入を例にとると、そのパターンは(1)本当に商品に異物が入っていたケース、(2)客が購入し手元に渡ったあとに混入したケース、(3)例えば剥落した“歯の詰め物”を金属片だと思い込むような勘違いのケース、(4)金品の要求を目的としたケース、などが考えられます。ただ、初動段階では実際のところは分かりません。しかし、かと言って行動が遅れてしまうと、結果的に企業が大きなダメージを被ってしまう可能性があります」(田中氏) たとえ理由の判明する前でも、企業はとにかく素早く行動することが肝要だと、田中氏は強調する。 「理由は大きく3つあります。1つ目は、異物混入などの情報を放置していると、その情報が独り歩きし、どんどん騒動が大きくなってしまうこと。2つ目は、時間が経つと異物が混入した商品の現物を押さえられなくなること。3つ目は、時間が経てば経つほど、消費者の痛みや処罰感情が増幅していってしまうことが挙げられます」(同) 特に現物に関しては、消費者は異物の混入した商品を手元に残したくないため、写真こそ撮っても商品はすぐに捨ててしまいがち。それでは原因究明が遠のいてしまい、取れるはずだった対応も取れなくなってしまうという。 「危機管理は“ダメージコントロール”とも言い換えられます。初動の早さが企業に与えるダメージを軽減することになるのです。その際に心掛けるべきは、消費者から投げられたボールをバットで打ち返そうとするのではなく、ミットで受け止めたあと丁寧に投げ返す姿勢です」(同)
チロルチョコの対応は「100点満点」
それでは、今回のチロルチョコの対応を危機管理のセオリーに当てはめると――。 「騒動の初期段階でまず、“事態を把握しており、対応中である”ということをしっかり発信できていました。この際、疑わしきは罰せず、まずはお詫びをするという対応も正しかったですね。今回はそうではなかったですが、時にはあり得ないような理由で異物が混入するケースもあるわけですから、その可能性をゼロと言い切ってはなりません。結果的に“事実誤認”であったと判明した後も、投稿者を責めなかったのも良かったですね。たとえデマを広めた相手だとしても、商品を買ってくれた顧客なんだ、という意識を持てているからこその対応だと思います。危機管理の観点から見て、100点満点の対応だったと言っていいでしょう」(田中氏) 奇しくも、11月7日には、菓子メーカーの「シャトレーゼ」が商品へのカメムシ混入を謝罪したばかりだ。 <10月4日に弊社お客様相談窓口にお客さまより異物混入のご連絡が入りました。その後、弊社では2週間の調査期間をいただき原因の究明にあたりましたが、弊社側のお客様対応におきましてご報告の大幅な遅れや不十分なコミュニケーションがあったことが判明いたしました。お客さまに与えてしまった不快な思いや不信感は計り知れなく、今後も信頼回復に向け誠意ある対応をとらせていただく所存です>(シャトレーゼ) 「初動こそ遅かったものの、自分たちの落ち度をちゃんと認め、経過を報告できている点は評価していいと思います。100点は難しくても、80点になってしまった対応が、さらに60点、50点と減点評価にならないように努めるのも、また危機管理の重要な観点です」(同)
チロルチョコに取材を申し込むと――
最後に、“神対応”をした当事者にお話を伺いたいと、チロルチョコに取材を申し込んだところ、 <いただいた内容について、お答えしたいところなのですが、同様のお問い合わせを複数いただいておりまして弊社としては個別対応が難しいため取材については辞退させて頂いております。せっかくのご依頼のため、ぜひお受けしたいところなのですがご対応できず大変申し訳ありません。> との丁寧な返事が。メディア応対も非の打ち所がないのである。 デイリー新潮編集部
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