秦基博、KANさんは「音楽を続ける上での指針」、憧れのスピッツ・草野マサムネともコラボ「宝物」
シンガー・ソングライターの秦基博(44)が、初コラボレーションアルバム「HATA EXPO―The Collaboration Album―」をリリースした。このほど、本紙のインタビューに応じ、収録曲「カサナルキセキ」(2021年)でコラボし、昨年11月に亡くなったKANさん(享年61)との思い出を語った。 KANさんとは2010年のライブイベント(大阪城ホール)で共演して以来、公私で気にかけてもらった「偉大な先輩」。酒を酌み交わし、音楽について語り合う間柄だった。このイベントで、KANさんは構成を担当。どうやったら来場者に楽しんでもらえるかを追求し、自らも、とことん音楽を楽しもうとする姿がデビュー5年目の秦にはまぶしく映った。 「当時の僕は、ギターを持って真ん中で一生懸命に歌うだけだったけど、踊ったり(ステージ上を)移動したり、やって来なかったこともを全部を出さないと、ついていけないようなステージだった」と回想。「でも、それがすごく楽しくて。音楽的なことで言うと、徹底的にこだわり抜く人。自分自身、こだわりを持ってやってきたつもりだったけど、“プロってこれぐらいやらないとダメなんだ”と学ばせてもらったというか、体験させてもらいました」 同曲はKANさんの「キセキ」、秦の「カサナル」を合わせると、1つの楽曲になるというKANさんの遊び心が詰まったナンバー。曲の長さやコード進行なども同じ。2つの曲が合わさってアレンジが完成するという仕掛けが隠されていた。 「19年の暮れ頃から打ち合わせが始まって。後に(コラボアルバムを)出せたら、と制作が始まりました。ピュアに“音楽で真剣に遊ぶ”というKANさんの感覚は理想的で。音楽活動を続ける上での指針になりました。そのスタイルをマネしようとしてもできないけど、自分なりの形で、音楽で真剣に遊ぶこと、音楽を楽しみ尽くすことをしていきたいと思います」 今作では、秦が10代の頃から憧れるスピッツの草野マサムネ(56)とのコラボが「ringo」で実現。初めて買った洋楽CDで音楽のルーツとなったリサ・ローブ(56)、sumika、ハナレグミらとの全10曲が収録される。 草野がフィーチャリングではなく、他のアーティストと楽曲を共作するのは初めて。秦がスピッツ主催イベント「ロックロックこんにちは!」などに度々参加した縁もあって、熱烈なオファーが実った。 「『ロビンソン』『空も飛べるはず』『チェリー』…、思いきり浴びてきた世代。瑞瑞しい曲をずっと出し続けるすごさみたいなものを、ミュージシャンになってからこそ感じるんです。本当にすごいな、憧れだなと。このアルバム自体が宝物になりました」 デモ音源2曲を渡し、「りんご」をモチーフにしたキュートなラブソング「ringo」でいくと決まった。「僕が一番のサビを書いて、それを送って。マサムネさんが冒頭部分を書いてくださって。メールベースで作っていったので、どこか文通みたいな、往復書簡のようでした。どんな歌詞が届くんだろうというワクワク感と、その後に返すので中途半端なものを作れない、お待たせさせることもできないという緊張感とで。幸せな時間でしたね」 レコーディングにも立ちあった。スピーカーから届く、聴きなじみのある優しい歌声。自然と高揚し、どこか夢見心地だった。「『あっ、スピッツだ』『あっ、マサムネさんだ』という感動が襲ってきて。ただただ、すごいな!って。現実感がなかったです」 2006年に「シンクロ」デビュー。オリジナルアルバム7枚をリリースするなど着実にキャリアを積んできた。再来年には20周年が控える。 「自分のスタイルを構築しては壊してを繰り返す中で、今回、いろいろなミュージシャンの方々と音楽感、創作に対するこだわりに触れられて刺激しかなかったです。この先の音楽人生をより良くするための、意義のあるものでした。20年という節目に向かって、また1つ、形になっていけばいいなと思います」(加茂 伸太郎) ◆秦 基博(はた・もとひろ)1980年10月11日、宮崎県生まれ横浜育ち。44歳。2006年デビュー。14年映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」が大ヒット。17年初の横浜スタジアム公演、台湾で初ライブ。21年連続テレビ小説「おちょやん」の主題歌「泣き笑いのエピソード」を担当。代表曲に「鱗(うろこ)」「アイ」など。
報知新聞社