親の歪んだ愛情をリアルに描き話題に。「すべては子どものためだと思ってた」著者・しろやぎ秋吾さんインタビュー
12月に発表され、SNSを中心に多くの話題を集めている漫画「すべては子どものためだと思ってた」。 【このマンガを読む】『すべては子どものためだと思ってた』(画像154枚) この漫画の著者・しろやぎ秋吾さんは過去にも、いじめを被害者・加害者双方の立場から描いた漫画「娘がいじめをしていました」がSNSで物議をかもしました。漫画がSNSで話題になることは珍しくありませんが、しろやぎさんの作品で特徴的なのは「考えさせられる」という感想が多いこと。 しろやぎさんが「すべては子どものためだと思ってた」で扱ったテーマは、子供の成長に悪影響を及ぼす「毒親」。主人公の主婦・くるみは愛する息子のために努力を惜しまず、もちろん暴力や虐待といった行為もしませんが、ついには子どもを傷つけてしまうに至ります。 くるみはなぜ毒親になってしまったのか、この漫画がなぜ注目されているのか、まずはこの物語のあらすじをご紹介しましょう。 ■「すべては子どものためだと思ってた」あらすじ くるみと夫・けんじの息子、こうたは小学3年生。未熟児として生まれ、体が弱く自己主張もあまりしないタイプです。 「こうたには無理」「こうちゃんでもできる」という同級生たちからの言葉に、くるみはこうたが下に見られていることを感じ、罪悪感を抱いていました。 なぜならくるみは、「自分がこうたを未熟児に産んでしまった、体の弱い子にしてしまった」と思い込んでいたから。 仕事に忙しい夫にも義母にも頼れないくるみは、孤独感と罪悪感を深めていきました。 平均的な子どもの成長速度に追いつけていないこうたのため、本人が寝た後に成長ホルモンを注射することが日課になっていました。こうたに気づかれないようにすることが、くるみの愛情だったのです。 くるみは、5年生になったこうたに、中学受験のための塾に通わせることに決めました。 新しい友達もでき、塾に慣れてきたこうたをサポートするため、くるみはスマホでの情報収集に余念がありません。 こうたの塾での成績やスケジュールを把握し、勉強時間を管理するのもくるみの重要な仕事になりました。 友だちともっと遊びたいこうたは不満そうですが、中学受験という目標のために、一緒に頑張る覚悟を決めたくるみは熱心にサポートします。その結果、こうたの成績は順調に伸びていました。 しかし、こうた6年生の夏。塾のテストの成績が3回連続で下がってしまいました。 こうたのゲームの時間もなくし、習い事も辞めさせるなど、削れる時間はすべて勉強に充てているのに…。さらにくるみは家事や家族の世話もあと回しにして、こうたの勉強にのめりこんでいきます。 中学受験がやってきます。「油断するのが一番こわい」というネットの情報をもとに、くるみはこうたに滑り止めを受験させないことにしました。 そして迎えた受験翌日の合格発表。 こうたの合格を信じて疑わなかったくるみですが、合格者発表の掲示板に、こうたの番号はありませんでした。 ■しろやぎ秋吾さんインタビュー ──本作を描くにあたって、難しかったことはありますか? しろやぎ秋吾さん 「家族が崩壊するかもしれないという過程を考えるのは難しかったです。毒親に育てられた方に取材して話を伺ったりしました。難しかったですが、かなり勉強になった作品でした」 ──ご自身もお子さんがいらっしゃるなかこのお話を書くには葛藤があったと思います。このお話を描いてみて、どんな感想を持ちましたか? しろやぎ秋吾さん 「家族構成など我が家をモチーフにしている部分もあるので、もう少し準備してからじゃないと子どもには見せたくないと思っています」 ──漫画を描きはじめたきっかけを教えていただけますか? しろやぎ秋吾さん 「高校生のころ、絵日記サイトを見るのにハマって、自分もやってみたいと思って絵日記を描き始めました」 ──インスタグラムもX(旧Twitter)もそれぞれ多くのフォロワーさんがいらっしゃいますね。コメント数や引用コメント数などもかなり多いようですが、すべて目を通されていますか? またインスタとXで反響の違いを感じることはありますか? しろやぎ秋吾さん 「コメントはどちらもすべて読んでいます。インスタでは女性が多く、またコメントも多いように思います。育児されている方も多いと思うのですが、漫画の内容やコメントを見て追い込まれてしまわないか心配です…」 作品やコメントを読んだ読者の心中まで心配するしろやぎさんは、この漫画のあとがきの中で「毒親が題材の企画をもらった時、正直言って嫌でした」と当時の心情を書いています。その背景には「毒親というと、(各家庭にある)事情も全部無視してはいこの人が悪いです、ってなってしまいそうで怖かったです」というしろやぎさんの思いがありました。 漫画の主人公・くるみは、結果として家族を苦しめてしまいますが、しろやぎさんはその行動の裏にある彼女の事情、思いも描いています。しろやぎさんの漫画は分かりやすい正解のある物語ではありません。だからこそ、誰もが「自分がこの立場だったら」と考えさせられ、SNSに投稿せずにはいられないのでしょう。 正解のない子育て。だからこそどう子どもに向き合うべきか、考えるきっかけになる作品です。 文=山上由利子