ドアが開くと、天皇陛下と雅子さまが立っていた… 能登半島地震の被災地の美容室で、おふたりの声が重なった瞬間
天皇、皇后両陛下は12日、能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県を再び訪れ、被災した人たちを見舞った。地震の傷跡も生々しい商店街を歩いた天皇陛下は、再開した美容室からガラス越しに手を振る町の人たちに気づき、突如ルートを変えて雅子さまと一緒にドアの前に立った。 【写真】被災者の『声』に気づいた石川県での天皇陛下と雅子さまはこちら * * * 眼の前に立っていたのは、天皇陛下と雅子さまだった。 「開いたドアの真ん前、数センチのところに天皇陛下と雅子さまが立っていらっしゃって……。おふたりが歩いてこられた店の前の道路は、地震でデコボコして瓦礫もあるし……と頭が真っ白になりました」 そう話すのは、天皇陛下と雅子さまがお見舞いに訪れた穴水町で、美容室を経営する女性(49)だ。 能登半島地震で20人が命を失い、6千棟あまりの建物が被害を受けた同町。東京から特別機と自衛隊のヘリコプターを乗り継いで到着した両陛下は、多くの建物が倒壊した商店街で、吉村光輝町長から被災状況などについて説明を受けた。 女性の美容室も、店の大きな窓ガラスが割れるなど、少なからぬ被害が出た。店で営業ができなくても、町の人たちのカットができないかと避難所に足を運んだが、設備がない場所ではできることに限界もある。避難所では何度も「店を開けてほしい」と声をかけられた。 家屋や店は壊れたまま、コンクリートの瓦礫が散らばる町。それでもかつての日常をわずかでも取り戻したいと、水道が復旧した2月1日から美容室を再開することにした。
通りに面した大きなガラスは割れたまま。修理の依頼はしているが、なかなか順番が回ってこず、ブルーシートでふさいで雨風をしのいでいる。それでも、 「美容室の青と赤、白のサインポールが回っていると、ホッとする」 そんな町の人の言葉を励みに、営業を続けてきた。 ■ドアを開けると陛下と雅子さまが 天皇陛下と雅子さまが町を訪れた日も、馴染みのお客の髪をカットしていた。ドアに近い大きなテーブルには、同じ商店街で洋服店を営む母娘や店の大家さん夫婦が座り、「天皇陛下と雅子さま、見えるかな」と話をしていた。 吉村町長の説明を聞きながら、陛下と雅子さまが歩いてきた。両陛下は、店の前にある横断歩道を渡り、バスに乗る予定だった。 近づいてくるおふたりに向かって、店内からガラス越しに、お客たちが大きく手を振った。それに気づいた様子のおふたりは町長に何か話しかけ、町長もうなずきながら店を指さした。 そして、町長が美容室に歩み寄ってきて、引き戸のドアを開けた。 ドアの数センチ先には、天皇陛下と雅子さまが立っていた。 カット中だった店主の女性も、店内でベンチ椅子に座っていた大家さんや知人らも、意外な出来事にそのまま動けなかった。 ■おふたり同時に「大丈夫でしたか?」 「大丈夫でしたか?」 天皇陛下と雅子さまの声が、重なった。 我に返った店主の女性は、両陛下が立つ店のドアまであわてて駆け寄った。 雅子さまは、大きくはないが、ゆっくりと聞き取りやすい声で、たずねた。 「いつから(お店を)再開されているのですか」 2月にお水が来たので、2月から再開しています。答えた女性に、雅子さまはこう返してくれた。 「大変でしたね。身体に気をつけてやってください」 雅子さまの隣で、陛下も「うん、うん」といった様子でうなずいている。