イメージだけ毛嫌いしないで!抱腹絶倒コメディ『ヘヴィ・トリップ』などエクストリームだけど良作ぞろいのメタルムービー5選
フィンランドの田舎に暮らす冴えないメタルバンドの奮闘を描き、まったくのノーマークからスマッシュヒットを記録したコメディの5年ぶりとなる続編『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』(公開中)。“メタル”といえば、その激しい音楽性ゆえに「危なそう…」「怖い…」と敬遠されがち(?)なジャンルだが、エクストリームゆえか、映画との相性は抜群でユニークな良作ぞろい。ここではぜひ毛嫌いせずに観てほしいメタルムービーを紹介していきたい。 【写真を見る】コメディからヒューマンドラマまで、過激だが良作ぞろいなメタルムービー集めてみた!(『メタルヘッド』) ■乱暴者のメタラーが壊れた家庭を再生させる…『メタルヘッド』 『(500)日のサマー』(09)での文化系男子ぶりがハマっていたジョセフ・ゴードン=レヴィットが、ロン毛&上裸のタトゥー男というイメージを裏切るワイルドなキャラクターを演じた『メタルヘッド』(10)。本作は心に傷を負った少年とその家族が、粗暴なメタラーとので出会いによって人生をやり直していくヒューマンドラマだ。 交通事故で母親を亡くした少年TJ(デヴィン・ブロシュー)は、父もショックから立ち直れない崩壊寸前の家庭で暮らし、そのうえ、学校ではいじめられる最悪な日々を送っていた。そんなある日、ひょんなことから知り合ったヘッシャー(ゴードン=レヴィット)が家に押しかけ、一緒に暮らすハメに…。大音量でメタルを流し、破壊的な行動を繰り返すヘッシャーに迷惑していたTJだったが、いつしか彼の無軌道な姿に心を動かされていく。 パンツ姿で家をうろつく、白昼堂々ポルノを流す、いじめっ子の車に火を放つ、留守の家の庭で勝手に遊ぶ…など開いた口が塞がらないようなひどい言動を繰り返すヘッシャー。だが、その一方で家族から軽視されている祖母の話し相手になる優しさも併せ持っており、なんとも憎めない。 ヘッシャーの奔放な振る舞いが悲しみに囚われた家族を動かしていくという、いわばメタル版『家族ゲーム』。異物の存在によって機能不全の家族が再生していく物語は、過激な描写に反して正統派に仕上がっている。 なお彼が好んで聞くのがMETALLICA(メタリカ)の楽曲。メタリカといえば、映画での楽曲使用を滅多に許さないことで知られているが、本作ではヘッシャーのキャラクター像が、若くして亡くなったベーシストのクリフ・バートンをイメージしたことに感動し、許可したそうだ。 ■激ヤバなライブ演出が脳天を揺さぶる…『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』 世界的に有名なメタルバンド、メタリカを題材としたのが『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』(13)。本作は実際のライブ映像とフィクションを組み合わせたユニークな作品で、ライブの様子と並行して、デイン・デハーン扮するライブスタッフの青年トリップが、ガス欠のトラックに置き去りにされたバンドにとって大切な“ある荷物”を取りに行く様子が描かれる。 簡単なおつかいのはずが衝突事故や暴動に巻き込まれてしまうトリップは、はたして時間内にライブに戻ることができるのか…?というスリリングな物語がぶっ飛んだ世界観と共に描かれる本作だが、メインで映しだされるのはライブ。ファン以外には退屈かもしれないが、このライブが激アツだ。 ステージのいたるところから上がる火柱や銃撃のように注がれる光線で戦場を再現したかと思えば、ステージに巨大なレディ・ジャスティス像を作り上げてはそれをぶっ壊したり、無数の十字架が出現したり…楽曲の世界観を表現した演出はとにかくド派手で、その辺の映画以上にドラマチック!ファンでなくてもこのヤバすぎるライブには心を奪われてしまうはずだ。 ■実在するバンドの狂乱の青春を描いた『ロード・オブ・カオス』 同じく実在するメタルバンドを扱った作品として取り上げたいのが『ロード・オブ・カオス』(18)。ブラックメタルシーンの黎明期に人気を築いたノルウェーのバンド、メイヘムを題材に、世間に衝撃をもたらした彼らの暗黒史が虚実を織り交ぜながら描かれていく。ブラックメタルバンドの元祖として知られるバソリーの元ドラマー、ヨナス・アカーランド監督がメガホンを握っている。 1987年、ギタリストのユーロニモス(ロリー・カルキン)は、真のメタルバンドを追求し、ボーカルのデッド(ジャック・キルマー)らと共にメイヘムでの活動に熱を上げていた。ライブ中にデッドが自らの身体を切り刻む過激なパフォーマンスが受け、熱狂的な支持を集めるようになっていくメイヘムだが、ある日、デッドがショットガンで頭をぶっ放し自殺してしまう。その現場を写真に収め、アルバムジャケットにしたことでカリスマとして祭り上げられたユーロニモスは、インナーサークルを作り、“誰が最も邪悪か”を競い合うようになるが、バンドメンバーのヴァーグ(エモリー・コーエン)の教会放火を機に歯止めが効かなくなってしまい…。 当時のブラックメタルのシーンで起きた事件を扱う本作だが、描かれているのは世界のどこでも行われているような男たちのマウンティング争い。些細なことが手に負えないカオスへと発展してしまう、邪悪だがどこかせつない手触りもあり、狂乱の青春映画として楽しめる1作だ。 ■メタリカにも影響!架空のバンドを追った『スパイナル・タップ』 一方、架空のバンドにカメラを向けた作品が『スパイナル・タップ』(84)。『スタンド・バイ・ミー』(86)のロブ・ライナーの初監督作で、大御所ヘヴィメタルバンド、スパイナル・タップの再起を懸けた全米ツアーに密着したモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)スタイルのコメディだ。 カルト的人気を誇る本作は、ボーカルとギタリストの不仲や次々と交代するドラマー、ギタリストの音の大きさへのこだわりなど、音楽好きなら思わず笑ってしまうようなヘヴィーメタル、ハードロックバンドの“あるある”をパロったネタが満載。 劇中でスパイナル・タップがリリースするアルバムのジャケットがエロすぎて、レコード会社に真っ黒にされてしまうという、ロックバンドにありがちな黒ジャケットをいじったネタが登場するが、メタリカの“ブラックアルバム”こと「Metallica」は本作のオマージュ。後世へ多大な影響を残した、実は重要な1作だ。 なお、スパイナル・タップは全員が楽器を演奏でき、実際に映画の公開後にはアルバムを幾度もリリースしているため、ある意味では実在のバンドとも言える。 ■冴えないメタルバンドが思いがけずビッグになっていく『ヘヴィ・トリップ』 最後に紹介するのはメタル大国フィンランドを舞台にした『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』(18)。片田舎の冴えないメタルバンドが、ひょんなことからノルウェーのメタルフェスに参加することになるという爆笑の珍道中を描いたコメディだ。 家の地下室での練習ばかりで、オリジナル曲もライブ経験も名前すらないコピーバンドを組む仲良し4人組。結成から12年、ついに自分たちの曲を作ることを決意し、試行錯誤の末にとてつもない名曲を生みだすと、さらに巨大メタルフェス、ノーザン・ダムネーション出演という千載一遇の大チャンスが舞い降りる。 バンド名を“インペイルド・レクタム(直腸陥没)”に決めた4人は、“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”を標榜し、いざ地元のバーで初ライブに挑むが、ヴォーカルのトゥロ(ヨハンネス・ホロパイネン)が緊張から大嘔吐をし、フェス参戦も水の泡に。そんななか、ドラマーのユンキ(アンティ・ツォーマス・ヘイッキネン)が命を落としてしまい、亡き仲間の夢を叶えるため、トゥロたちは新たなドラマーと共にノルウェーを目指していく。 くだらないギャグや国境警備隊との戦いなど、はちゃめちゃな要素が満載な本作だが、ホロリとさせられる友情や生き様も盛り込まれており、キワモノかと思いきや意外にもウェルメイド。いかつい見た目やブルータルなサウンドに反して真面目でナイーブな4人のキャラクターをはじめ、バンドロゴが読めないといったメタルあるあるも満載。スウェーデンのメタルバンド、ストラトヴァリウスのラウリ・ポラーが手掛けた楽曲のクオリティも抜群で、随所にメタル愛が込められており、メタル入門としてもおすすめだ。 ノーマークからまさかのヒットを記録したこの1作目から5年、現在公開中の『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』はその続編となる。 ノーザン・ダムネーションへの出演と引き換えに逮捕され、孤島の刑務所に服役しているインペイルド・レクタムの4人。ある日、ドイツの超大型フェス、ヴァッケン・オープン・エアから出演オファーが届くが、準備不足と投獄を理由に辞退し、看守の目を盗みながらひっそりとメタルを演奏する日々を送っていた。 そんな最中、ギタリストのロットヴォネン(サムリ・ヤスキーオ)の実家であるトナカイ粉砕場が地上げ屋による乗っ取りの危機を迎えていると知った4人は、出演料で実家を救うべく、刑務所を脱獄し、ヴァッケンを目指すことに…。 前作以上にパワーアップした珍道中に加え、本作では商業主義への迎合というミュージシャンにとって避けて通れない宿命も描かれ、バンドは存続の危機に瀕してしまう。プロモーターからカバー曲の演奏を強制されたり、魂の新曲を勝手にチャラくアレンジされたり、メンバー内の扱いに格差が生まれたり…。まるで権力者と奴隷のような関係が蔓延る音楽業界の光景に肩を落とすインペイルド・レクタムが選ぶ道とは…? エクストリームな音楽性やシーンの特徴をうまく笑いへと昇華したコメディから、過激な暗黒史を描く衝撃のドラマまで、多岐にわたるジャンルで良作がそろっているメタルムービー。好き、嫌いにかかわらず楽しめる作品ばかりなので、ぜひこの機会にチェックしてみてほしい。 文/サンクレイオ翼