東出昌大が考える“セックスレス問題”「どこかで傷つける覚悟を持つしかない」
「こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい」 人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」では、俳優・東出昌大が「すねに傷のある僕にしか話せないこと」を読者から募集し、対話していく。 【画像】山籠もり生活をエンジョイする東出昌大 第6回では「失恋の苦しみ」と、第4回で取り上げた「パートナーとのスキンシップ」の継続相談を行っていく。
オーバーヒートした心を冷ます
<Letter No.10 失恋しました。彼とは高校3年間、同じ部活で活動しました。上品な顔立ちで性格も穏やかな彼のことを私は好きになりました。春からは別々の大学に進むので、思い切って彼に告白したのですが、返事は「ごめん」というものでした。更に、こうも言われました。「Tさんが正直に告白してくれたから自分も正直に言う。自分はゲイなんだ」と。 ショックでした。それは、私が彼の恋人になれる確率はゼロだと分かったからです。彼にも好きな人がいて、けれどもその好きな人には彼女がいるから、自分は告白しないまま諦めると話していました。 そんな風に、私に正直に話してくれた彼の真摯なところに、失恋してもなお惹かれてしまうのです。 「時間がたてば気持ちが落ち着くよ」とか「大学で彼氏見つかるかもよ」などと友人は慰めてくれますが「そうだよね」とは、まだ私には思えません。 こんな辛い気持ち、本当に時間がたてば癒やされるのですか? たかが失恋くらいで、と思われるかもしれませんが、せっかく受かった大学にも通う元気が出そうにありません。 どうしたらいいでしょうか? アドバイスをお願いします。> 東出 好きな人との恋が実らないことが精神的にかなりキツいのは、僕も身に覚えがあります。といっても、悲しみには質量がなくて客観的には計れないから、相談者さんの辛さが「ぜんぶわかる」とは言えないけれど。 いま、あなたは心が摩耗しきって疲れていることだと思います。そしてこのすり減った気持ちは、時間が経つことでしか回復しない。心が疲れると抑鬱的になって、極端な思考に陥ってしまいがちです。この先一生苦しみ続けるのかもしれない、生きている意味はあるのだろうか……そういった思考にハマってしまうかもしれない。 でも、こういうマイナス思考は、脳がバグってるというか、フリーズ状態に入っただけなんです。車で例えるなら、エンジンがオーバーヒートしちゃってるわけで、いったん冷ましてあげなきゃいけない。それと同じように心も休ませてあげるべきなんですよね。ちんけな言葉に思えるかもしれませんが、時間が経てば傷は癒えてくる。これだけは信じてほしいです。 あと、「せっかく受かった大学にも通う元気が出そうにありません」と言ってるけど、履修登録だけは手を抜かないでほしいです。ちょっと時期的にはもう終わってしまったかもしれんけど、ヤケになってテキトーな選択をしてしまうと後悔するから。 ──東出さんは痛い目を見たんですか? 東出 いやぁ、本当ひどかったですよ(笑)。あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、けっこう荒れた生活をしていて、1年生の前期は2単位しか取れませんでしたから。 相談者さんは少しでもおもしろそうな授業をちゃんと探して履修登録してほしいですね。勉強に打ち込んでたら、失恋の傷もいつのまにか忘れてるかもしれんし。もし前期は投げやりになってしまったのなら、それは過ぎたことなので仕方ない。後期からやり直しましょう。 ──東出さんも、山での生活にシフトしていきました。それも心を休ませるためでしたか。 東出 ここに来たのはいろんな理由がありますけど、ひとつはそうですね。家の中に引きこもっちゃうと、どんどん内省する方向に行っちゃって、余計に心がすり減っていくんですよ。だから相談者さんも家に籠らないでほしいです。 今ってインターネットで個人情報をいくらでも追えるじゃないですか。彼のことをSNSで調べたりもしたくなるかもしれんけど、それは止めたほうがいい。こういうときは忘れるしかないんです。家で鬱々と考えこむくらいなら、スマホも持たずにぷらぷら歩いてほしいかな。僕はやっぱり散歩信者なのでこればっかり言ってますが(笑)。歩きながらゆっくり思いを咀嚼しやすいので、ぜひ散歩してみてください。 あ、あと最後に。この相談文を読んで、思い出したことありました。僕が今よりずっと若いとき、渋谷のスクランブル交差点に面したスターバックスで外の景色を眺めながら、「ここを行き交う人々それぞれに、固有のドラマがあるんだよな」と、ふと気づいたんです。楽しそうに笑いながら歩いている学生、観光客、早足でセンター街に向かう人、スーツの人……、その全員が何かしらの悩みにぶつかったことがあったでしょう。それでもみんな生きているんですよね。そう思うと、僕はすっと肩の力が抜けました。相談者さんにもこのことは覚えていてほしいな。